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【第1章】旅男娼の幕開け

崩壊するクラン(イディオ視点)

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夜もまだ賑わいを見せている酒場のテーブルの隅で、男がバツが悪そうな顔でグビグビと酒を飲んでいる。

男のやつれてクマのできたひどい風貌と相まって、服もボロボロに薄汚れているからなのか、男の座るテーブル付近を避けるようにして、他の客は各々酒を飲んで楽しんでいた。

ギリギリと、木製のテーブルに爪を立てながら、男は恨めしそうな顔つきで酒に手をつけた。

ー俺は、S級クラン『グラン・イーデン』の超一流剣士のイディオ様だぞ!!

それが、どうして……どうして、

なんで、こうなったんだ!!


…………


事の発端は、あの役立たず魔導士メイジ「リーブル」を追放してから次の日の事だった。

いつも通り、ギルドの掲示板に張り出されている討伐依頼の札を取り受付に渡すと、あろうことか受付の男はこう言い放った。


「あなたのランクでは、そのSランク相当の依頼札を受付することは出来ません。」


と。


一瞬、何を言われているのか分からず一時停止してしまったが、ふと自分のクランカードを確認すると、『Fランク』という表示に唖然とした。


ーなんだ、これは!?


「どうしてSランククランの『グラン・イーデン』が最低のFランクにまで落とされているんだよ!!」

これは何かの間違いだと思い受付の男に詰め寄るも、男は呆れた顔をするだけだった。

「ん、んな事言ったってアンタ……そりゃリーブルが抜けたからに決まってるだろ……」

「な、なんであの出来損ないの名前が出てくるんだよ!?」

ーなんなんだこの受付の男は……!?話にならない!

なんで出来損ないが俺のクランを抜けたら、俺のランクが最底辺まで落ちるって言うんだ!?

「詳しく言うと……ブラッドも抜けたせいだ。」

「だからなんで出来損ない共が抜けたらそうなるんだ!?」

ーなんなんださっきから!出来損ない共の名前を出して!いちいち癇に障る!!

「そりゃ……名義上のリーダーはアンタだっただけど、実質、紙面上ではリーダーをリーブルにしてたんだ。だって……結成当初アンタ、自分をリーダーにしろの一点張りだったし、リーブルが表面的な名義上はアンタに変更してくれって頼んできたから仕方なく……」

ー紙面上、表面的……?何を言っているんだ!?訳が分からない!!

「それがなんでFランクになるんだよ!?」

俺が受付の男に聞き返す

受付の男は、バンッッ!とテーブルに拳を叩きつけた。その時の音は、ギルド内が響き渡るぐらいのデカさだった気がする。

「だから!!アンタのレベルが『Fランク相当』だからに決まってるだろ!!!!」

「……は?俺がFランク……!?」

「う、嘘だ!?何かの間違い……」

「間違いじゃねえって!!なんなら鑑定でもしてやろうか?そもそも、今までSランクだったのは最初はブラッド……んで、ブラッドが抜けたあとはリーブルのレベルを基準・・・・・・・・・・・としてSランククランになってたんだよ!一般の冒険者ギルドでは、紙面上の名義人であるリーダーのレベルが、ランクを決める基準となるからな……これで分かったろ!」

足元が、覚束無い。

がくり、と膝を床について、ガタガタと身体の震えが大きくなっていく。

言われた言葉を受け入れることができない俺は、頭が真っ白になる。

ーそんな、そんな……そんなの知らない!!

今初めて知ったぞ!?なんなんだ、そんな……

でも……だからといって……俺は相当な数の魔物を倒したんだぞ!?

なら、なら……俺のレベルはSランク相当に匹敵するはずなんだ!!

こんな……こんな受付ごときに……!
 



「えー、イディオさま……じゃなかった、アンタってFランクなんだ~。私的にはDランクくらいかと思ったけど……」

後ろから、見知った高い声が聞こえる。
俺の女……いや仲間の細剣士「リリア」だ。

いつもと違う、声の口調が俺の頭をさらに混乱させた。

「な、なんだリリア……何言って……」

「やっだ~!!超ダサ~……アタシたちはみーんなAランクなのに……やっぱリーブル様とブラッド様のお陰だったんだね~……なんかおかしーとおもった。だってアンタ、今まで見てたけど全然剣の動きとか自分でしっかり動けてた感じじゃなかったし……」

リリアの隣でクスクス笑うのは弓師の「クーデリス」。サイドテールの毛先をクルクルと指に絡ませながら、普段の俺に擦り寄ってくる可愛らしい表情からは一変して、気だるそうな顔つきで俺を嘲笑していた。

「アンタが機嫌悪いと、物投げたりしてくるしめんどかったからみーんな口裏合わせて一応持ち上げてたけど……」

はー……とため息をつきながら、ローブに収まった黒いつややかな髪をばさり、と靡かせるのは精霊術師の「ルクレラ」。


3人は、膝をつく俺の前に立ってそれぞれクスクスと笑いながら見下ろしてくる。


「もうアタシたち、クラン脱退手続きしたから~」

「ブラッド様もリーブル様もいないんじゃ、いる意味ないし~!!」

「そーそー!でもとりあえずは、今までリーブル様の言う通りにしてよかった~!」


きゃっきゃと声高に話し出す3人


ークラン……脱退だと!?!?!?


突然の脱退宣言に俺は声を荒らげて、叫び出した。

「クラン脱退!?そ、それになんだよそれ!?り、リーブルの言う通りに……ってなんだよそれ……!?」

俺の言葉が不快に思えたのか、女たちは眉を寄せている。ふう、と一息ため息を着くとペラペラ喋り始めた。

「加入した時、アンタが機嫌悪くなったら面倒だからって、常に持ち上げといてくれとか?優しくしてやってくれとか……」

「今後、アンタの剣の腕に自信ももてるだろうからって…あ、でもこれ助言って言えるのかな?だって、アンタなんの特訓もしてなかったし。」

「でも今考えると、リーブル様とブラッド様が自ら抜けられるようにしたいからって意味だったのかな?や~ん!!アタシブラッド様好みだったのに~!!」

「私もリーブル様超超超~タイプだったのに~!策士すぎるでしょリーブル様ぁ!!」

きゃーきゃー!と役立たず共の名前を呼びながら黄色い声を上げる女どもの思考が全く理解できない俺は、震える足をなんとか奮い立たせて女たちの前に立ち上がる。

「な、なあ!そんな事より…嘘だよな!?リリア!!クーデリス!!ルクレラ!!クラン脱退なんて、なあ!!!」

俺の縋るような言葉を無視して、プイッ、と3人は踵を返してギルドの出口に向かう。


俺を一切、見ようともせずに。


「はーああ、ほーんと無駄な時間だったよね~…まあでもしばらくはリーブル様が居てくれたからまだよかったけど…」

「ね~、それよりこの後スイーツ食べ行こうよ~」


きゃあきゃあ、と甲高い声で3人は冒険者ギルドを後にした。


ー俺は1人、ただ呆然と立ち尽くすだけであった。

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