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忠告14 話をしに参りました
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忠告14――話をしに参りました
――慌ただしく二週間がすぎ去り、十一月初旬。
とうとうレセプションパーティー当日を迎えてしまった……。
藤森さんと居酒屋に行った日は、なぜかノンアルコールのカクテルを飲んでいたのに、途中から酔いつぶれてしまったらしい。
そこへ智秋さんが迎えに来てくれたらしいが、今日までバタバタして、まともにお礼も伝えられていない。
そう――お礼はだけではない。きちんと話す暇が持てないまま、今日がやってきてしまった。
引き抜きの件、どうなっているんだろう……?
彼が何をしようとしているのか、聞けないまま仕事に打ち込む日々を過ごしてしまった。
(もちろん、イズミさんのことも聞けていない)
パーティー開会数時間前。私はなんとも落ち着かない心境で、会場内の最終チェックや準備に勤しんでいた。
「桜~、ゲストのリストここに置いておくわね。あと社長から差し入れもらったから、後ろ置いておく」
「ありがとう、リストは貼っておくね」
「よろしく。私は、残りのメンバーにも共有してくる」
英国で開花したジャコビアン様式を基調とした優雅な外観と、城庭のようなお庭。螺旋階段のついた吹き抜けの多目的ホール。まるでファンタジーの世界から出てきたような洋館だ。
――ここは、会長が所有する、都内の別邸。
本日のレセプションパーティーは、世界的なアピールの場だからと、会長自らここを会場にと申し出てくれた。
デートをした植物園(別荘だっけ?)に引き続き、まさか、こんなところまで所有しているだなんて。旧財閥の資産力は、いったいどこまで異次元なんだ……。
私たち秘書室面々と担当役員は、そんな異国のようなこの洋館で、朝から委託業者と共に最終準備に励んでいる。
私と友子の役回りは、ロビーにて受付カウンター担当だった。
スタイルのいい友子は、シックで細身のマーメイド型の黒ドレスに身を包んでいる。
対して私は、上品なネイビーのワンピースドレスでいつもより大人っぽくきめた。
カウンターから見上げると、うちの社のロゴである鷲を、会長の大切に育てた薔薇たちが大きく形どり、堂々とロビー中央でそびえている。
大きな薔薇のオブジェ……。
言葉に言い表せないくらい綺麗で、心が震える。
「そういえば、今日、レノックス社長はパーティーにいらっしゃらないのよね」
受け取った招待客リストをセットしていると、横から覗き込んできた友子が、思い出したようにつぶやく。
私は目をパチクリして顔を上げた。
「え? そうなの? 招待状は……」
「もちろんこっちで準備したわ。でも、出す前にクリスが持っていっちゃったの。送る書類があるからこちらで出しておくって」
「……クリスが?」
その名前を聞いて、一瞬ドキリとしてしまった。
クリスとは廊下で話したのを最後に顔を合わせていない。帰国までに片付けなければならない仕事が山積みだと聞いていた。
「えぇ、でも返信ハガキすらなくて――。
日付見て、この日はスケジュール的に難しいだろう~と言ってたわ。でも、レノックス社長はとても律儀な方だから、ダメならダメで一報ありそうなのよねぇ~……仮にもクリスがうちの会社にずっといたわけだし」
それは最もだ。気さくなレノックスおじさんの人柄なら、挨拶くらいの一言ありそうだ。
届いてないということはないだろうから、忙しくて対応できないのだろうか……?
ちなみに、ダニエル会長には、会長たっての希望で私のほうで準備させてもらった。
レノックスおじさんは、留学当初から機器オタクのクリスが無茶をしそうになると、すかさず止めに入ってくれていた。
今回の引き抜きの件も、そんな期待をもっていたんだけど……その望みもなくなってしまった。
零れそうになる吐息を飲み込んだ。
――いや、大丈夫。
智秋さんが、大丈夫だと言ってくれたんだ。
それに、窮地に陥ったときには、私にだって、考えがある。
――慌ただしく二週間がすぎ去り、十一月初旬。
とうとうレセプションパーティー当日を迎えてしまった……。
藤森さんと居酒屋に行った日は、なぜかノンアルコールのカクテルを飲んでいたのに、途中から酔いつぶれてしまったらしい。
そこへ智秋さんが迎えに来てくれたらしいが、今日までバタバタして、まともにお礼も伝えられていない。
そう――お礼はだけではない。きちんと話す暇が持てないまま、今日がやってきてしまった。
引き抜きの件、どうなっているんだろう……?
彼が何をしようとしているのか、聞けないまま仕事に打ち込む日々を過ごしてしまった。
(もちろん、イズミさんのことも聞けていない)
パーティー開会数時間前。私はなんとも落ち着かない心境で、会場内の最終チェックや準備に勤しんでいた。
「桜~、ゲストのリストここに置いておくわね。あと社長から差し入れもらったから、後ろ置いておく」
「ありがとう、リストは貼っておくね」
「よろしく。私は、残りのメンバーにも共有してくる」
英国で開花したジャコビアン様式を基調とした優雅な外観と、城庭のようなお庭。螺旋階段のついた吹き抜けの多目的ホール。まるでファンタジーの世界から出てきたような洋館だ。
――ここは、会長が所有する、都内の別邸。
本日のレセプションパーティーは、世界的なアピールの場だからと、会長自らここを会場にと申し出てくれた。
デートをした植物園(別荘だっけ?)に引き続き、まさか、こんなところまで所有しているだなんて。旧財閥の資産力は、いったいどこまで異次元なんだ……。
私たち秘書室面々と担当役員は、そんな異国のようなこの洋館で、朝から委託業者と共に最終準備に励んでいる。
私と友子の役回りは、ロビーにて受付カウンター担当だった。
スタイルのいい友子は、シックで細身のマーメイド型の黒ドレスに身を包んでいる。
対して私は、上品なネイビーのワンピースドレスでいつもより大人っぽくきめた。
カウンターから見上げると、うちの社のロゴである鷲を、会長の大切に育てた薔薇たちが大きく形どり、堂々とロビー中央でそびえている。
大きな薔薇のオブジェ……。
言葉に言い表せないくらい綺麗で、心が震える。
「そういえば、今日、レノックス社長はパーティーにいらっしゃらないのよね」
受け取った招待客リストをセットしていると、横から覗き込んできた友子が、思い出したようにつぶやく。
私は目をパチクリして顔を上げた。
「え? そうなの? 招待状は……」
「もちろんこっちで準備したわ。でも、出す前にクリスが持っていっちゃったの。送る書類があるからこちらで出しておくって」
「……クリスが?」
その名前を聞いて、一瞬ドキリとしてしまった。
クリスとは廊下で話したのを最後に顔を合わせていない。帰国までに片付けなければならない仕事が山積みだと聞いていた。
「えぇ、でも返信ハガキすらなくて――。
日付見て、この日はスケジュール的に難しいだろう~と言ってたわ。でも、レノックス社長はとても律儀な方だから、ダメならダメで一報ありそうなのよねぇ~……仮にもクリスがうちの会社にずっといたわけだし」
それは最もだ。気さくなレノックスおじさんの人柄なら、挨拶くらいの一言ありそうだ。
届いてないということはないだろうから、忙しくて対応できないのだろうか……?
ちなみに、ダニエル会長には、会長たっての希望で私のほうで準備させてもらった。
レノックスおじさんは、留学当初から機器オタクのクリスが無茶をしそうになると、すかさず止めに入ってくれていた。
今回の引き抜きの件も、そんな期待をもっていたんだけど……その望みもなくなってしまった。
零れそうになる吐息を飲み込んだ。
――いや、大丈夫。
智秋さんが、大丈夫だと言ってくれたんだ。
それに、窮地に陥ったときには、私にだって、考えがある。
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