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クレール・クール

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Eランク昇格試験

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 オレたちの初めての冒険から10日後……今は5回目の冒険の最中だ。

 おかげさまでチャンネル登録も更新回数の割には少しずつ増えてきて、現在のところ6人。ありがとう。

 最初の目標の10人まではあと少し。

 初めてこの動画を見ている視聴者さん、面白いと思ってくれたらどんどんチャンネル登録やコメントを残してくれよな。

 オレは女神メルトリーゼことメルルと契約してこのエランディールの魅力を伝えるために転生した。

 今は6属性の魔法しか使えないけど、チャンネル登録者が一定数を超えるたびに新しい能力をもらえる契約になっているんだ。

 つまり、正しくみんなの応援がそのままオレの力になる。

 ある意味、視聴者参加型のチャンネルとも言えるんじゃないかと思う。

 さてそんなオレだが、魔法こそ1か月間の自主特訓期間を経てある程度はイメージ通り自由自在に使いこなせるようになってきたけど、肉体の強度的には一般的な日本人の24歳の男とそう変わらない。

 冒険者に必要なものは、まずなんといっても度胸と好奇心、それに体力だろう。

 好奇心にはそれなりに自信があるつもりだけど、度胸と体力はこの世界の成人年齢である15歳男子にすら劣るのは残念ながら間違いがない。

 回復魔法を使えば疲れはとれるけど、逆に筋肉の超回復もなくなってしまう。

 だから基本的にケガ以外では使わずに、地力のアップを図ることにした。

 というわけで、今まで受けた依頼は基本中の基本のゴブリン退治ばかりだ。

 初心者用の仕事をしながら森や草原を歩き、体力をつけ低級の魔物を繰り返し倒すことで度胸というか、この世界に慣れるつもりだからだ。

 あまり奥地までは入っていかないように気を付けながら、触りの部分で依頼をこなす。

 角オオカミや角ウサギも安全に狩れそうな時は狩り、薬草も目に付いたものは採取して儲けの足しにするのが駆け出し冒険者のお約束ということで、ミリゼットに教わりながらいろはを学んだ。


「いたぞ」

 ミリゼットが5匹のゴブリンを見つけた。

 ゴブリンたちは獲物を探しているのか、縦1列に並び森の道から外れたところを歩いていた。

 素早くミリゼットの指示に従い、オレたち3人はいつものフォーメーションを組む。

「【サンダーアロー!】」

 風属性と光属性を組み合わせることで雷属性を疑似的に作り出すことに成功したオレは、今ではこの属性をメインの攻撃魔法として使っている。

「ぐぎゃああぁ?!」

「ぐぎょっ!」

 完全な不意打ちで1匹のゴブリンを雷の矢が貫通し、さらに奥にいたもう1匹に突き刺さる。

「ふんっ!」

 飛び込んだミリゼットの剣は相変わらずの鋭さを見せ、ゴブリンに悲鳴をあげさせることもなく袈裟懸けに切り裂く。

「もう一丁! ……そしてお前で終わりだ!」

 ダークエルフ特有なものなのか、ミリゼットのしなやかな体躯が舞うと、最後に残された2匹のゴブリンはいとも容易くこの世界に別れを告げた。

「……こっちも大丈夫そうだ。 ちゃんと倒せているぞ」

 オレが最初に魔法で攻撃した2匹の生死を確認したことで、オレたちとゴブリンの戦闘とも言えないような戦いはあっという間に終わった。

「おふたりとも、お疲れ様でした。 お怪我は大丈夫そうですね」

 離れた位置で警戒にあたっていたメルルから水の入った革袋を受け取り、回し飲みする。

 はじめはなんとなく恥ずかしかった……いや、オレだってそれなりに経験はあるぞ? それでもミリゼットみたいな超美人と回し飲みなんてそりゃ意識しないほうが無理ってもんだ。

 直接敵陣に飛び込むわけではないメルルがあまり目立たないがこれは仕方がない。

 ミリゼットは敵の気配にはすごく敏感だけどさすがに戦闘中に目の前の敵以外にそこまで注意を払うことはできない。もちろん、オレもだ。

 いちばんまずいのは、意識外の敵から奇襲を喰らってしまうこと。

 さらにいえばオレたちの先生の不意打ちが失敗した場合、ケガか毒か、このあたりにはいないらしいが魔法を使う敵がいたら何らかの魔法とかが原因でオレの回復魔法が使えなくなってしまうことが考えられる。

 そんな突発的な不具合に備えて戦闘範囲外にメンバーを残しておくのも、立派なパーティー戦術なんだ……と、ミリゼットが言っていた。

「よし、こいつらの魔石は回収したぞ」

 手早く解体し、魔石を回収するミリゼット。

 実はオレも前回の冒険の時試しにやらせてもらおうと思ったけど……うん、やっぱり無理でした。これからもよろしくお願いします。

 かららん

 冒険者ギルドのドアを開けるといつも聞こえるこの音にもだいぶ慣れてきたもんだ。

 夕方にはまだ少し早い時間帯に戻ってきたおかげで依頼達成報告の窓口も誰も並んでいなかったので、スムーズに手続きにはいることができた。

 今日の成果はゴブリンの魔石が12個に、角オオカミと角ウサギの魔石が2つずつとそれぞれの皮や牙、角に肉。それと薬草が少々。

 時間はまだあったからもう少し狩ってきてもよかったんだけど2つの理由から早めの帰還を決めた。

 1つはオレのモットーである『まだ行けるは、もう危ない』を守るため。

 いくらゴブリンや角オオカミが弱めの魔物といっても、魔物は魔物だ。

 油断すればあっという間に大ケガを負うだろうし、下手をすればメルルに回復してもらう間もなく即死なんていうこともありえるかもしれない。

 それに帰りの道中でトラブルに合う確率だってそれなりにあるんだ。充分以上にしっかりと余力は残しておくべきだと思う。

 2つ目は持ち運べる量には限界があるから。

 オレとミリゼットが角オオカミの素材を持ち、メルルが角ウサギを2匹分持てばそれでもう荷物はいっぱいだ。

 無理をすれば持てなくはないだろうけど、それはやっぱりしないしさせたくない。

 ホワイト企業ならぬ、ホワイトパーティーを目指すのだ、オレは。

 ただ、2つ目に関しては解決策も無くはない。

 ラノベや漫画に詳しい諸氏ならもうお分かりだよな?

 そう、アイテム袋だ。

 ただし高難易度ダンジョンから本当に極々まれに出るもので、持っているのは高位の貴族や王族に超大店の商店主、A級やS級のトップ冒険者の一部に限られる。

 当然ミリゼットは持っていないし、ここのような地方都市で売りに出ることもない。

 まあもし売っていたとしても、買うお金なんてどこにもないけどな!

 だけど、オレはチャンネル登録が増えるごとに能力をもらえるという話はこの動画の冒頭でもしたよな?

 その能力で、アイテムボックスか、もしくはその上位互換っぽい印象のあるストレージをもらえばいいんじゃないかと思っているんだ。

 ただ、他にも瞬間移動や状態異常無効、鑑定に索敵といった定番チート能力も捨てがたい。

 その折り合いをどうつけるかだけど……うん、その前に楽しんでもらえる動画を作るのが先だよな。

「はい、確認終わりました。こちらが今回の報酬です」

 受付嬢から報酬金を受け取ると、そのまま飲みに行くのがいつもの流れなんだけど

「あ、すいませんちょっとお待ちください」

 という声で引き止められた。

「えーと、何か問題でもありましたか?」

「いえ、そういうのではありませんよ。実はですね、皆さん……というよりは、ヒカリさんとメルルさんですね。おふたりは今回の依頼達成でEランクへの昇格試験の資格を得ました。ですので、もしよろしければ次回挑戦されてみてはいかがかなと思いまして」

「え、もうですか? わたしたち冒険者になってからまだ10日ほどですし、依頼だってまだ5回しか達成していませんよ?」

 メルルが受付嬢に確認するが、オレも同じ気持ちだ。少し早い……よな?

「いえ、皆さんは毎回討伐系の依頼を主にやっていらっしゃいましたよね? こちらは薬草採取や街中での雑用系の依頼に比べるとギルドへの貢献値が高いんですよ。Cランクのミリゼットさんがいらっしゃるので多少貢献値の割合は下がっていますが、それでも今回の依頼達成で条件クリアです。おめでとうございます」

 にっこり笑顔で褒めてくれる受付嬢、マジ天使。あとでこっそり名前を聞いておこう。

「なるほどね。で、昇格試験の内容は?」

「はい。ここから北北東に半日ほど進んだ場所に、今は使われていない鉱山があります。そこに巣食っているジュエルタートルを討伐し、甲羅と魔石を持ち帰ることができればクリア、見事Eランクです!」

「ジュエルタートル?」

「ご存知ありませんでしたか? 2足歩行の亀の魔物で、甲羅は鉱物でできているんです。長く生きたタートル……皆さん亀と呼ぶのでわたしもそう呼ばせていただきますが、長く生きた亀ほど希少な鉱物で甲羅ができていて、強さも上がっていきます。ただし、皆さんの試験ではどのジュエルタートルでも構いませんので、まずはカッパータートル、つまりは銅の甲羅の亀ですね。そのような若い亀で大丈夫です」

「ふーん。鉱山は閉山しても、そのかわりに亀の甲羅が素材になっているのか。それなら確かに冒険者ギルドやここの領主としてはおいしい場所だよな」

「そうですね。DランクやCランクになってもこの鉱山を拠点に狩りをされるパーティーはいくつかありますね。儲けがいいので。ただし、奥にいる古参の亀はとても強いので手は出さないほうがいいですよ。勝ち目はありませんからね。特に最奥にいるとされる神と呼ばれる亀に至ってはたとえAランクでも倒せ「ストーーップ!」」

 まったく、危ないところだった。思わずかぶせて叫んでしまったじゃないか。

 メルルなんかは隣で笑いをこらえるのに必死になっているしな。

 ミリゼットと受付嬢は突然叫んだオレに驚いてぽかーんとしている。

「いや、いきなり叫んで悪かった。なんかフラグが立ちそうな気がしたもんで」

「フラグ……ですか?」

 意味が分からず首を傾げる受付嬢。かわいい。

「気にしないでくれ。で、その試験はミリゼットといっしょでもいいのか?」

「はい、問題ありません。受けられますか?」

「2人と相談してからだな。返事は今すぐじゃなくてもいいんだよな?」

「ええ、もちろん」

「分かった。取り合えず今日はこれから打ち上げだから、明日にでも話し合っておくよ」

「分かりました。お疲れのところお引止めしてしまいすいません。お疲れさまでした」


 かららん

 ギルドを後にするオレたち。

 ……フラグ、立たなかったよな? な?!

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