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当事者に話を聞いてみることにした

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 ソフィアの報告書で情況をある程度理解した私は、レオノーラとローゼマリー嬢を招いて話を聞くことにした。やはり当事者から話を聞くのが一番だろう。

 王宮の庭ではディアークと鉢合わせる可能性もあるので、今回は母が所有している温室を借りることにした。ここは母が私財で管理していて、母の許可がなければ父ですらも入ることは出来ない場所だ。一方で私は母の一人娘なので、一言言えば済む。ここならディアークが入ってくることは出来ないし、心置きなく本音を話すことも出来るだろう。

「まぁ、さすがはローデリカ様の温室ですわ。相変わらず手入れが行き届いて……」
「なんて、素晴らしい……」

 今までに何度かは言ったことがあるレオノーラだったが、久しぶりの庭にほぅとため息をついていた。母はこまめに手入れをされているので、半年も経てば咲く花も違って別世界だ。
 一方でローゼマリー嬢は翡翠色の瞳をこれでもかというくらい大きく見開いていて、幼く見える顔立ちが一層幼く見えた。柔らかそうな亜麻色の髪も相まって愛嬌がある顔立ちだが、眼鏡がそれを打ち消しているように見えた。

「本当に、素敵です……まるで天の園みたい……」

 すっかり温室に心を奪われていたローゼマリー嬢だが、初めてなら声を失うほど驚いても仕方がないだろう。ここは他国の王族ですらも一度はお目にかかりたいと言われるほどの名園なのだ。



 ひとしきり温室内を散策した後、私たちは温室の一角にある四阿でお茶をすることにした。今日の本題は温室ではなく、ディアークたちのことだ。今後の対応を考える上でも、ローゼマリー嬢の話は避けて通れない。

「それでは、ローゼマリー嬢は悪女だと噂されていると?」
「はい。私とミリセント様とは面識もなく、クラスも違うのですれ違う程度の接触しかないのですが、なぜか私が彼女を虐めているとの噂が流れています」
「それに心当たりは?」
「身に覚えは全くありませんし、ここ半年以上は必ず誰かと一緒にいるようにしております」

 いじめの内容は教科書を破かれたり、私物を捨てられたり、時には廊下で後ろから突き飛ばされたりというものだった。今のところミリセント嬢がそう主張しているだけで証拠も証人もいないが、ディアークらはそれを信じているという。
 ローゼマリー嬢が一緒にいるのは、ミリセント嬢のせいで婚約がなくなった令嬢たちで、それもミリセント嬢が虐めだと主張する要因になっているのだという。彼女らがそうしているのは自己防衛のためだ。どんなとばっちりがあるかわからないから、元より親しい友人には学園では距離をとる様に勧めているという。

「被害に遭った令嬢こそ、いい迷惑でしかないだろうに」

今になって婚約がなくなれば次の相手を探さなければならないが、条件のいい相手は殆ど残っていないのだ。どうしても合わない場合は早急に白紙にして相手を変えるが、それも十五歳になる前には終わらせているのが殆どだ。

「そう思いますし、大半の生徒もそう思っていると思います。ですが……」
「ディアークが王太子だから、か」
「はい」

 まだ王太子ではないんだがな、とは思ったがそれは言わなかった。この二人はその事を重々承知しているからだ。

「それで、彼らは婚約を破棄すると言っていると聞いたが?」
「はい。どうやら卒業式の日に行われる夜会で宣言するようです」
「夜会で?」
「はい」

 夜会とは卒業式の後で王家が主催する夜会だ。国内の学園の卒業生を招いて開かれるもので、大人の第一歩を踏み出す彼らを祝う催しだ。ここからは完全に成人として扱われるが、その場で婚約破棄を言い渡すとは……

「そんなことをしたら、ディアークは廃嫡になるかもしれないのに……」

 もうため息しか出てこないし、それは他の二人も同じだったのだろう。重くなった空気を変えたくて、側に控えていたソフィアにお茶を入れ替えるように頼んだ。

 その時だった。温室の入り口で何やら言い合っているのが聞こえたのだ。この温室は母が厳重に管理しているので、入り口や周辺には騎士が配置されている。何かあったのだろうか。
 直ぐに離れた場に控えていた護衛の一人が様子を見に向かったが、直ぐに戻ってきた。その顔色はあまり良くないところを見ると、いい話ではないようだ。

「何があった?」
「それが……ディアーク様が、温室に入れろと。エーデルマン公爵令息やローリング卿らもご一緒で、無理やりにでも押し入ろうとしております」
「は?」

 思わず耳を疑った。国王ですらも、他国の王族を招くには事前に母の許可を得るというのに……思わずレオノーラと顔を見合わせてしまったが、残念なことに不快な声は段々こちらに近づいていた。




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