君となら

紺色橙

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37 告白

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「うわっ」

 ごろごろどしん。ベッドの下へと落ちる山田は頭を守っていた。代わりにベッドの上に立って・・・いたのは、仁だった。
 オレはそれを見上げ、彼が靴のままそこにいることに気が付いた。そしてその足の間にいる自分が裸であることも。

 落ちた山田を見て、オレの上にいる仁を見た。

 仁はベッドから降り立ち「服を着てね」と優しく言った。

「えーと? テレポしてきた?」

 突然目の前に現れたのだからそういうことだ。仁はオレを目標にして飛んできた。

「正解。まさか恋人・・のところに飛んで来たら襲われてるなんて思わないよね」

 恋人、とわざとらしく仁は強調して言う。
 とりあえず言われるがまま服を着て、ベッドから立ち上がる。足元では同じように転がっていた山田が服を着なおしていた。

「あー、と、この家は山田ので、ええと、飛んできたのが仁だよ」

 二人にそれぞれ紹介するように言う。

「開発者の都築仁です。よろしく、山田さん」

 さっきまでのあれこれはすっかり無かったようになっている。服を着た美少女は仁に肩を抱かれ、これまた服を着て立ち上がった山田を見た。

「このゲームを作った都築さん?」
「そうです」
「ああ……」

 山田は何かを知っているようだった。オレは他の運営開発者を誰一人として知らないけども、山田は知っているのだろう。そもそも山田自身のことも知らないが、彼ももしかしたらただのテストプレイヤーではなく製作に関わっているのかもしれない。

「結婚してるって言ってたもんな。ただのシステムテストだと思ってたけど」

 仁と美少女のアキラは結婚している。それはそう。だから仁はここに飛んでこれたのだし。

「未遂?」
「未遂。キスもしてないよ。けど胸は触った」
「そっか。とりあえず連れていっていいかな」
「いいよ」

 ぐいと仁に手を引かれた。

「アキラ、今度は健全に遊ぼうな」

 山田が明るい声で言ってくれたから、怒っていないことは分かる。頷いて、入ってきたときと同じく玄関から出た。そのまま仁は家のドアを開ける。そうすればもう、仁の部屋だ。まったく同じ出入り口というのはなかなかシュール。

「なんか、まずかった? まずいかそりゃ」

 オレが夜仕事のお姉さんだったならまだしも、そういう設定は付けていない。だから仁とはただの一般人としてえっちしていた。そんな相手が突然自分以外をも相手にしているんですよなんてわかったら、驚いてしまうだろう。この世界に性病はなさそうだけれど、現実ならそんな心配もしてしまう。

「ごめん。オレが山田に声かけたから、なんかこうなっちゃって」

 誘ったわけではないけど、実際はそんなもんだ。
 仁はただ「うんうん」と唸るような同意するような返事をする。
 ダイニングのテーブルに座って頭を支える仁。オレはどうしたらいいのかわからなくて、ただ傍に突っ立っていた。

「……なぁ山田って製作側の人?」
「違う。彼はテストプレイヤー」
「でも山田は仁を知ってたよな?」

 それっぽいそぶりをしていたし。
 目を開けた仁はこちらに向きなおしてくれた。

「このゲームを作ったのは俺だ。といっても最初だけなんだけど。だからじゃないかな」
「今も開発者じゃん?」
「基礎を作って、今のところに持ち込んだんだよ。なんでこんなゲームを作ろうと思ったか知りたい?」

 そりゃあ、知りたい。こんなリアルすぎるゲームをどうして個人で作成し始めたのか。普通なら企業単位でやるものだろう。
 頷くオレに仁が言う。

「アキラが外に出てきてくれないから、こういうゲームならやってくれるかなって思って」
「オレ? どういうこと?」
「単純な話だよ。アキラに会いたかったってこと」

 仁が言い切った言葉の意味は通っていたけれど、なんだかしっくりこなかった。

「まぁ引きこもりですし」
「だから大変だったんだよねぇ」

 しみじみとため息のように吐かれる。

「好きだから会いたかったんだよ。みんなでのオフ会なんか絶対参加しないし。でも最近俺と二人ならって悩むようになってきてたよね。だからもう、我慢できなくて声をかけた。受けてくれてよかったよ。これでダメだったらアキラを引っ張り出すすべなんかなかったから」

 矢継ぎ早に話す仁は優しい顔をしていた。

「オレを好き? そんな馬鹿な」
「馬鹿でも天才でもいいよ」
「だって好きになる要素が無いよ? いや、今の美少女なら一目惚れだけどさ……。仁は美少女のオレと混ざって勘違いしてんじゃないかな」
「そうかな」
「そうだよ」
「でも俺が自覚したの、昔だよ。前のゲームでさ、ちょっと忙しい上に体調崩して、1週間以上空いてからログインしたんだ。それまでは何も考えてなかったけど、ログインするときになって『ああもうカップル解消されてるだろうな』って少し残念に思ってた。だけどインしてみたらアキラは変わらずいて、足元にはハートが出た。その時に俺この人が好きなんだなって思ったんだ」

 足元にハートが出るカップルシステムは、オレたちが一番最初に出会ったゲームにあった。カップルになることでパーティ経験値は増えるけれど、その分攻撃力は犠牲にしていた。だから仁は、オレがログインしない彼を待つことなくカップルを解消して火力を取ると思っていたんだろう。
 あの時オレがなぜそれをしなかったのかは覚えていない。それほど困っていなかったというだけかもしれない。でも仁は、そんなことを喜んだのだという。

「でもそんなの、ただ狩りをする気がなくて指輪外さなかっただけだろうし……仁のことを考えてとか、そんな、そんなんじゃないよ……」
「あのねアキラ、酷い言い方だけど、あくまで俺が好きになっただけだから、アキラがどう思っていたかってのはどうでもいいんだ」
「仁の気持ちだからオレに口出しはできないってことだよね」
「そう。もうあの時からずっと一方的に好きだから。一方的だよ、そんなのは分かってる」

 一方的だから。

「じゃあ仁は、オレと恋人になりたいってわけではないの?」
「なりたい。でなきゃどのゲームでも結婚なんかしていない。このゲームでだって、アキラに手なんか出してないよ」

 あくまでもゲームの中という仮想世界でだけども、オレたちはセックスをした。オレはただエロいことに興味があっただけ。でも仁は違ったのか。オレ・・としたかったのか。

「好きなんて、よくわからない」
「……とりあえずログアウトしようね」

 促され現実に戻る。
 横たわっていたオレは体を起こし、ベッドに座る仁を見た。眠りから覚めたオレを窺うようにする彼は、ゲームの中と服以外何も変わらない。対してオレはふわふわの髪の毛も消えているし、初めて試着して買った服だってなくなっている。痩せた足にぶかぶかのズボンは着古しているし、膝に置いた指先は綺麗な色には塗られていない。あの手鏡がなくたって、分かる。
 だけどもオレは視線を落とさず仁を見ることができた。目を合わせて、彼の次の言葉を待った。

「俺はゲームの中でも現実でも、アキラのパートナーになりたいと思ってる」
「パートナー」
「今まで通りゲームをともに遊ぶ友人であり、そして恋人でもある」

 数多のゲームで結婚をしてカップルになってきた。それはゲームの中だけでのこと。そんなシステムがあったからやったこと。悩まないし考えなかった。今は何が違うだろう。色々と違うよね。オレはどのゲームでも女の子だったけど現実では違うし、あとは――あとはなんだろうな。

「女装したらいい? 性転換は、お金もかかるし難しいかな」
「なにそれ」
「だって女の子でなくちゃ、パートナーになれないじゃん」

 仁は驚いて、それから変な味を確かめるみたいに悩む顔をした。

「男のままで平気だと思うよ?」
「そうかな」
「パートナーになってくれるの? 問題はそこだよ」
「いいよ。けど……正直よくわからない。何をしたらいいの? 教会に行って結婚式を上げたらいい?」
「それもいいけど、うーん」

 どうしたら仁の望むパートナーになるんだろうか。現実でも同じように結婚して婚姻届けを国に提出したらいいんだろうか。それ以外の方法は分からない。

「仁の好きなようにしたらいいと思う」
「ほんとにいいんだね?」
「いいけど……。今まで人と付き合ってこなかったから、よくわからない」

 漫画の中では好きだと告白をしていた。そのあとは両想いだから恋人になったり、両想いなのにうまく行ってないのもあった。好きでもないのに形だけ付き合って、そのうち本当に好きになるっていうのもあった。
 美少女は大体こちらが何もせずとも勝手に好きになってくれていた。今は同じ状況だと思う。オレは何もしていないのに仁は好きだといってくれた。そんなのを拒絶することはないだろう。

「アキラは俺のこと好き?」
「友達としてはすごく好きだよ。さっき仁が言ってた通り、お前だったら会ってもいいかもなって思ってた。きっと、オレが見苦しいことをしてもその後ゲームでは遊んでくれるだろうって」

 だから来たのだ。VRゲームに興味があっただけではない。仁だから、大丈夫だろうって踏み出した。そして現にそうだった。

「……今日は寝ようか。寝て明日また、ね」

 仁は告白を失敗したと思っているのかもしれない。やっぱりオレをパートナーなんかにしたくないと思っているのかも。
 好きにしていいよと言ったのに、告白が成功したと彼は喜びもしないし、それで抱き着いてきたりもしなかった。もし仁が本当に美少女ではない現実のオレを好きだったとしても、もう、この一瞬で好きではなくなってしまったかもしれない。さすがにそれなら、今後ゲームを一緒にやることはできなくなるのかな。
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