君となら

紺色橙

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36 お邪魔します

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 王都に帰り、仁の家と同じように山田家のドアを開けた。中は外観から想像できるものばかり。木でできた椅子、机、吊られた電球も古めかしい。ファンタジーの世界に合わせられた部屋だ。だけども当然のように玄関で靴を脱ぎ、その木板に足を置いた。
 少し軋むような気がするが、古い建物という設定なのだろうか。ささくれだってはいないけれど、床はくすんでいる。窓ガラスも隅の方がくすんでいる。二脚の椅子が向かい合うテーブルの上には籠の中に果物が入っており、甘く爽やかな匂いがしていた。

 玄関から入ってすぐのテーブル。奥にはベッドが見えている。ドアはおそらく風呂場に続いていて、こじんまりとした部屋だ。
 仁の家とは全く違う。あの家がおかしくてこれが普通なのはただのプレイヤーと開発者の違いでもあると思うけれど、あの家はやっぱりおかしすぎる。

「これって家具は買ってきたの?」
「そうだよ。なんかとりあえず安いので良いかって」

 簡素な作りの机もテーブルも悪くはないと思う。猫足のような装飾がなくても、この部屋には合っている。

「結構種類あるの?」
「あるけど高い」
「だろうね」

 今までのネトゲでもそうだった。現実だって同じだろう。細かな装飾がついたり革張りのソファになったりすると高いのだ。そんなものを置くのなら部屋の広さも欲しいし、ハウジングはお金がかかる。

「オレ今までハウジングって興味なかったんだよな。けどこの世界だと本当に"使ってる"感じあるし、無駄じゃないかなぁ」

 ネトゲの家で出来ることなんかたいしてないのだ。なかったから、用もなかった。外にあるもので足りてしまえばあとは趣味の領域。
 だけどもこのゲームは違う。お風呂を使うのもベッドに寝っ転がるのも実感がある。だから居心地のいい自室を目指すのもいいかもしれない。金の問題はあるけども……。

 磨かれた木の優しく手に馴染む感覚。真っ白シーツのベッドは山田の大きな体を受け止められているのだろうか。

 視線を感じて見上げれば、山田と目が合った。

「ほんとに、裸になれるのか? 家だと」
「うん」

 前言っていた話。家の中でなら下着すら脱げるのだという事実。
 ボタン一つで服は消え去り、可愛いワンピースは鞄へと消える。そのまま下着に手をかけた。美容院で変えたふわふわの髪が胸を隠したが、下半身までは届かず手で隠す。

 近寄ってきた山田に促されるように座ったベッド。さらりとしたシーツの手触りを、オレは既に知っている。

「触ってもいいか」
「いいよ」

 オレの前にしゃがみ、見上げずともよくなった山田の大きな手。骨ばっているというより、肉厚でごつごつとしている。そんな手が見た目にそぐわず、優しく美少女の胸に触れた。
 避けられた髪の毛が再び戻り山田の手にかかる。その下で白い肌が触られる。小さな胸は大きな手にすっぽり収まってしまった。
 ふに、と少し力を込められる。その力加減に、自分よりとても大きな体が遠慮しまくっているのが窺えて笑ってしまう。

「柔らかいし、体温も感じる」
「すごいよね」

 てのひらが乳首を擦る。指先が胸の形をなぞる。それに声を出しそうになって、笑って口の中で噛み殺した。
 下へ向かう山田の手と、反る自分の体。そのままぱたんとベッドに倒れてしまった姿は何とも無防備だ。手で股間を隠してみたはいいものの、そっと摘まむように退かされた。
 へその下がむずむずする。山田の指が軽く押すように肌に触れる。この体の中身はあるのだろうか。

 立ち上がった山田はいつの間にか服を脱いでいた。下着が外されていく様をまじまじと見てしまう。

 ――あれ、もしかして、する・・んだろうか。
 そうか。オレは山田に、家でならエロいことだってできるんだよって伝えた気がする。相手にオレを指定してはいなかったけど、受け取り方次第ではそういうことになるか。わざわざそんなこと言ってくるくらいだから、誘われていたと思われても仕方ない。

 視界は大きな体で埋まり、眼前にはひげの生えた顔がある。

「細かいとこまで指定できるんだな、とは思ってたんだよ。胸はどのゲームでもよくあるが、男の下半身まで普通は設定しないだろ」
「オレ男のキャラメイクしてないけど、ちんこサイズまであったんだ?」
「あった。使えるから設定できたんだな」

 広がった髪を押し潰してしまわないように、山田はくるりと束ねて避けてくれた。長い髪が退かされてしまえば、全部開かれている。

「見栄はってデカくしたんだけど」

 少し顔を赤くしてそんなことを言うもんだから笑ってしまった。

「してもいいか」

 ここまで来てなお、それでも許可を求めてくれる。

「ええと、オレの中身男だけどいい? 見た目は最高の美少女なんだけど」
「アキラが実際に男か女かなんてわかりゃしねーからな」

 確かに。「オレ」と言っているリアル女の子かもしれない。「あたし」と言っているリアル男かもしれない。現実のアキラを知っているのは仁しかいない。

「じゃあ、いいよ」

 美少女とエロいことしたいって気持ちは、理解できるから。
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