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15. 王太子ジュスラン

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「鍛錬の相手を連れて来てあげましたよ」

 カールを指してシェリーが微笑みながら。
「お嬢様。今、殿下と言われたと思うのですが」
「多分カナック王国王太子ジュスラン殿下だわ。つまり手伝いって言うのは…」
 カールの困惑もわかる。
 一貴族の近衛騎士が他国の王族と会うなんて普通は無いから。しかもシェリーは鍛錬の相手をさせようとしてる。
 勿論、マーガレットも困惑してる。
 ジュスラン王太子は、隠し裏ルートたる闇堕聖女編でしか出てこない隠し中間BOSS。裏ルートでマーガレットの味方になるのは、今みたいに何かしらの繋がりがあったって事かしら?

 でも…。
 まさか、この場で出会うなんて。

「おっと、女性の前ではしたない格好ですね、失礼」
「殿下?私じゃなくて彼女達を見てから女性の眼を意識するのは如何なものなの?」
「そう言えばシェリーも女性でしたね」
「私の外見で男らしい所等無いと思っていたのですがね」
 確かに、賢者シェリーは短髪以外は絶世の美女と言っても過言では無い程。私達も羨む程のプロポーションだと思う。
 おそらくは性格。
 アッサリサッパリ。ある意味、とても男っぽい。
 この短時間でも、そう充分に感じてるもの。

「で、其方の方達は?」
「あ、お初にお目にかかります。私はウェルバーム王国のマーガレット=バルターと申します」
「ウェルバーム王国?バルター?すると筆頭公爵家のご令嬢?確かウェルバーム王国王太子の婚約者と聞いていたが。それにしては、その格好は?それに何故此処へ。我がカナックへ来られたのですか?」
「実は王太子殿下の勘気に触れ、婚約破棄を仰せつかりました。家名にも傷がつきましたので出奔した次第でごさいます」
 うん、ある意味、嘘は言ってないわ。
「ほう?では、今貴女はフリーなのですね。ならば私が『一目惚れした』と求婚プロポーズしても問題はない、と」
 いや、問題だらけでしょう?
「御戯れはおやめ下さいませ、ジュスラン殿下」
「私は本気ですよ、マーガレット嬢」
 これ程、自由な方だったの?
「殿下…。でも、貴方様が女性に興味を示されたのを初めてみましたわ」
 ちょ?シェリーさん?
「それ程、彼女が魅力的だと言う事だよ。それはそうと、君が鍛錬の相手だとシェリーが言っていたが?」
「あ、はい。私はバルター公爵家近衛騎士カール=ブラウンであります、ジュスラン殿下」
 カールが直様跪いて応えます。
 他国とは言え、王族への敬意は示さねば。
「あぁ、その様な礼は不要だよ。では、一汗程付き合ってもらおうかな」
 滝壺から上がって来たジュスラン殿下は、軽く水気を拭われると、改めて剣を構えカールと相対しました。
 と、シェリーさんが何やら魔法を?
「剣に鍛錬用の細工を施しました。思う存分にどうぞ」
 どうやら一時的に刃を潰したみたい。流石は賢者。カールが再び私を見るので、やむ無く頷いてみせる。
「では」

 ジュスラン王太子殿下は、その立場に溺れる事なくあらゆる事を真剣に取り組むお方に見えた。
 剣技等も、決しておだてられ甘やかされたものではなく、とは言え令嬢護衛に抜擢されるカールの相手ではなかった。
「ありがとう。いい鍛錬になったよ。流石は御令嬢の護衛だ。近衛騎士でも腕利と言えるモノなのだね」
「恐れ入ります、ジュスラン殿下」
 シェリー宅で待っている様言われたけれど、私達は、その場で待つ事にした。護衛のカールは「お嬢様から離れる訳にはいきません」と固辞したのもあるし、私自身、ジュスラン殿下に少し興味があったから。
 殿下が滝の畔で手拭を湿らし、身体を拭き始めたのを見て、私達はシェリーさん宅へ戻った。
「私が煎れます」
 メイドに立ち戻ったリサが、皆のお茶を入れ直し、その時に水属性通信メッセージをかける。相手は公爵家メイド長へルヴァ=パロラン。

『カナック王国王太子と邂逅、求婚される』

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 へルヴァの入れたお茶が煌めき、文字が浮かび上がる。

「は?」

 とても一見、信じられるものではなかった。

 カナック王国王太子と邂逅?
 求婚される?

 何がどうなったの?
 私は急ぎ、奥様キャサリンの元へ。

 この日、バルター公爵家に色んな意味で波風が立ったのです。
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