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第11章

1 お花見④

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 優子さんが晄理を戸田さんに返すと、晄理はおもちゃを持たされて再びベビーカーに収まった。
 そして、晄理がご機嫌なうちにと、いよいよお弁当を広げることにした。

 シートの上に二種類、二つずつ並べると、戸田さんは「両方中身を見たいから」と、各一個ずつを自分達用に取った。
 それを開けた戸田さんの表情がみるみる明るくなったのを見て、俺はホッとした。
「やるじゃん青山、これこれ! こういうのが食べたかったの!」
「お眼鏡にかなって何よりです……」
「デパ地下の弁当ってすげーんだな。高そう。あ、いくらだった?」
 晃輝はポケットから財布を出そうとした。
「ああ、いいよ。こっちも飲み物とか準備してもらったし」
「飲み物のほうが安いだろ」
「いい。今日までは晄理のお祝いってことで」
「マジで? ありがとう亮ちゃん大好き!」
「はいはい、次から割り勘な。あ、そうだ、優子さんも贈り物あるんだよね」
 そう言って振り返ると、優子さんはなんだか嬉しそうな顔で、目をぱっちり開けて頷いた。
 そしてお菓子のギフトを取り出し、おずおずと戸田さんに差し出した。
「これ、お口に合うかわからないけど、よければ育児の息抜きに……」
「えっ、私に? いいんすか!?」
「すげー。良かったな、あかり」
「ありがとうございます! 嬉しい! 晄理のおかげで儲かった」
 ギフトを手にすっかりご機嫌の戸田さんを見て、なんだか昔のイメージと違っている気がしていた。
 いつもムスッとして文句ばっかり言って、特に俺には毒づいてばかりだったけど――今もそれは変わらないけど、素直に喜べる純粋さも持ってるんだな。
 俺がおむつケーキを贈った時もすごい笑顔だったし、まあ、人間悪いところばかりじゃないということだろう。きっと。

 缶ビールで乾杯をして、皆でお弁当を食べ始めた。
 木洩れ日がいい感じに差して、暑くなく寒くもなく、心地よい気候だった。子供達がはしゃぎながら走り回っている広場は、平和そのものだ。
 優子さんから聞いたとおり、俺のお弁当はたくさんの種類のおかずが入っていて、しかもどれも手が込んでいて美味しい。
「優子さんのはどう? おいしい?」
「うん、おいしいよ。どれか食べてみる?」
「いいねぇ、ラブラブだねぇ」
 晃輝がニヤニヤしながら言う。
「お前らだって、高校の頃アイス二人で食べてたでしょ」
「ハハッ、そんなこともあったな。いやー、もう昔過ぎて。今は一口くれって言っても、冷凍庫にあるって言われるだけ……」
「当たり前。晃ちゃんの一口デカ過ぎだから」
「そこからじゃれ合いが生まれるのが楽しいのよ」
 なるほど、と俺は思ったが、戸田さんは不快そうな顔で全く聞き入れない。
 この二人は本当に大丈夫なのかと内心心配になる。
 でもその直後に、「晃ちゃん、それ美味しそうだね」と言いながら寄り添って晃輝のお弁当をつついていたので、余計な心配だったと思い直した。
「ゆーこさんは亮弥と結婚しないんすか?」
 唐突な晃輝の言葉に、俺はリアルにビールを吹きそうになった。
「ちょ、バカじゃねぇの、お前!」
「バカでぇ~す!」
 俺は心臓をドクドクさせながら優子さんのほうを見たが、優子さんは優子さんで俺をじっと見ている。
 え、何?
 その目は何!?
 そういえば、今日は俺に任せるって言ってたな。
 もしかして、こんな質問の対応を俺に任せる気なのか、優子さん!?
 聞かれたのは優子さんですけど!?

「俺は亮弥すげーオススメなんですけどね。いいやつですよ、コイツ。ちょっと女子に冷たいけど、ゆーこさんには優しいでしょ?」
「ですね、優しいし、一緒にいると安心できます」
「でしょ? 俺があかりの次に好きなの亮弥だから。マジオススメです」
「私巻き込むのやめて」
「まー、あのな、晃輝」
 俺が口を開くと、三人の視線が集中した。
「俺達まだつき合い始めて半年くらいだから。まだそういう話はしてないの。優子さん困らせるから、この話はおしまい」
 そう言うと、
「あはは、おしまいだそうです」
 と優子さんが笑いながらフォローした。
「そんじゃ俺、一方的にオススメしとくわ。ゆーこさん、コイツほんとゆーこさん一筋なんで、間違いないっすから、よろしくお願いしますよ」
「ふふ、ありがとうございます」
 はたして俺の言葉は正解だったのか否か――。
 とりあえず優子さんは変わらない笑顔を見せている。

 俺と結婚しないのかなんて、俺が一番聞きたい。
 聞きたいけど、聞けない。
 まだ、その答えを出せるほどには、俺達の距離は近づいていないのだ。
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