大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

人影と布

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を見た瞬間、ゾワッと。
身体中の鳥肌が一斉に過剰反応した。
これはヤバい。こいつはヤバい。《勇者》の本能が頭の中で警鐘を鳴らし続け、嫌悪感と拒否感がごちゃ混ぜになったような感覚が背筋を駆け抜けた。
この巨大な人影は強い。間違いない。そう感じさせた。
次いで疑問が湧き出してきた。
何故こんな奴がこんなところに来たんだ?
ここまでほんの一、二秒。もっと短かったかもしれないが、突然やってきたこいつに混乱していた間に、相手はすでに行動を終えていた。
とすっ、と軽い音がした。
音のした方、つまり自分の足元を見てみると、俺の拳二つ分ぐらいの大きさをした丸めた布の塊のようなものが落ちていた。
「ッツ!?」
いつの間に、どうやって、窓は鍵がかかっているし、開いてもいない。いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
身体は無意識に動いていた。とすっ、と言う音がした時から手は胸元の銀剣へと伸びており、視認した今、反射的にその布の塊を両断する。
軽い手応えと共に布の塊がいとも簡単に宙を舞い、割れた隙間から──長い腕が伸び、俺の銀剣をむんずと掴んできた。
「何ッ!?」
切ったはずの布の塊の中には何もなかった。なのに、明らかに生きた腕、細くはあるがしっかりとした筋肉のついた男の右腕がその何もない空間から伸び、俺の剣を受け止めている。
咄嗟に銀剣を引くが、余程の力で掴んでいるらしく、手が剣を離す様子はない。おまけにどういう訳か銀剣が全く持ち上がらない。
「クソがッ!」
マキナをつま先に装備して蹴ってみたが、全く反応はない。銀剣を一度手放し、一瞬で金剣を装備。銀剣に引きずられるようにして落ちていく男の腕に、《剛砕》を使った横薙ぎの一撃。
手加減無しの一撃が、次は左手に掴まれ、防がれた。
舌打ちをひとつ打ち、「白銀の腕アガートラム」と呟き、マキナと髪を腕に纏う。即座に形成したのは杭打機パイルバンカー
──両腕が剣で塞がってんなら、今その布の塊ん所に一撃ぶっこめば防げないよな?
何の躊躇もなく右腕を布の奥に広がる虚無空間へと叩き込む。
中で何かに当たった瞬間、杭打機が跳ねた。右肩を伝う強烈な反動、強力すぎて手ごたえもわからないが、普通の敵ならまず死んでいるだろう。
まぁ、感じた威圧感から、この程度では死なないのは分かりきっていたが。
だがそれでも多少の痛手ぐらいは与えられてようだ。剣は放し、腕も消えている。窓の外を見ると、さっきの影さえも消えている。布の塊はあるが、それだけだ。
「おいシステナ、逃げんぞ」
まだ起きる気配すらない女神に一応そう言い、担いで逃げる。あいつがいつ戻ってくるかわからんしな。目的すらわからんが、ひとまず逃げた方がいいだろう。
剣を髪で引き寄せ、小脇に女神。そういや聖女サマはどうなったのか。今は他人のことを気にしている場合ではないが、それでも気になるものは気になる。
だが知ることもできないし、今はさっきの人影から逃げない──
──髪を誰かに思いっきり掴まれた。
誰に?そりゃもちろんそんなことをするのは一人しかいないだろう。
「よぉ、悪いけど今すぐその手を俺の髪から離してくんない?」
そう言って振り返ると、予想通りの人影。大きな外套を着ており、その顔どころか体型すらわからない。
その手には無造作に握られた俺の髪。
人影は黙ったまま、しげしげと俺の髪を眺めている。離す気はないらしい。
「その髪はなぁ、お前みたいなクソ野郎が勝手に触っていいモンじゃねぇんだよ。今すぐ放せ」
「………。」
なおも無視。
「触んなって……言っただろうが!!」
回収したばかりの金剣と銀剣をそれぞれ握り、女神を投げ捨てて人影へと切りかかる。
その瞬間、俺と人影の間に入り込む小柄な人影。無視して纏めて叩き斬ろうとするが――硬い何かに阻まれる。
「愚か者。斬る相手をよく見んか」
その声は後ろから。システナが結界を張って俺の剣を止めたらしい。
「あぁん?」
言われて割り込んできた方の人影を見る……ん。
飛び込んできたときは全く気付かなかったが、これってもしかして。
「こ、こここ、こんばんは、レィアさん」
「あー、こんばんは、聖女サマ」
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