大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

深夜と待ち時間

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と、いうわけで。
日中は女神サマを連れて王都をぶらぶらと歩き回ってきた。
特に何かあったわけでもないので詳細は省こう。見るもの全てが珍しいのか、「あれは何だ」を連呼して、ほんの少し頬を興奮で赤くしていたことが少し…いや、かなり意外だったが、まぁ見た目相応か。
ついでに言っておくことがあるとしたら、思った以上に女神サマが俺の言う事に素直に従っていたことか。特に教会関連に関わらないでくれという俺のお願いを(随分と渋ったり言い合ったりしたものの)承諾してくれたのは本当に助かった。
だってこいつがそっちに行って得になる未来が欠片も見えなかったもんでな。確実に厄介事を山のように抱えて面倒なことになるのは間違いないだろう。
一応一通り王都を見回ってから感想を聞いてみたところ
「栄えてはおるな。余が覚えている限り、ここまで安穏とした日々を送っていたヒト達はおらなんだ」
とのこと。平和になってよかったな、とも取れるし、平和ボケしてたるみきってんなコイツ等、とも取れる微妙なお言葉をいただいた。
さあて、それじゃあそろそろ本題に入ろう。
今現在の時間はもう少しで深夜零時になろうかと言ったところ。密会の時間は零時丁度なので、聖女サマももうすぐ現れるだろう。
ちなみに待ち合わせ場所は結局とることとなってしまった王都の安宿の一室。今夜俺達が泊まる部屋だ。まぁ、安宿と言ってもそれなりの値段はしたのだが…それはさておき。
一体どうやって聖女サマは俺達の部屋にやってくるつもりなのだろうか。流石に正面は閉まっているだろうしな。
部屋に備え付けてあった木製のがたつく椅子に座り、ふとそんなことを考えていた。ちなみに女神サマは仮眠中。
明かりもつけず、月光のわずかな光に照らされて一人…つまりやることがないのだ。
『おい今代の。何か来たぞ』
「ん?」
壁に掛けてあった時計とにらめっこをしながら、長針があと一、二目盛で零時を指そうとしていた時、シャルがそう声をかけてきた。
「何かってなんだよ」
『大きさからして人…か?動きが変態的だが恐らく間違いないな。多分』
「…来たか」
時間ギリギリと思うべきか、はたまた時間ピッタリと思うべきか。まぁいいか。
なんにせよ来てくれてよかった。
『………あんまりよくない気がするんだがな…ん?』
どうしたシャル。
『感覚的に…来てるのは一人?しかも一直線にこの部屋の方へ向かってんな』
どうしてこんなことまでわかるのか。シャルの索敵機能は本当にとどまるところをしらない。
「聖女サマがこっち来てんだろ。しっかし英雄を連れずに来るとはな。たしかに知ってる奴は少ない方がいいとは言え」
しかし変態的な動きをしながらこっちに向かってるってのはどうなのよ、聖女として。
『おい今代の、どこへ行く』
「ん?部屋の鍵を開けに。入ろうとして鍵かかってたら気まずいじゃん?」
『そうか今代の。喜べ』
「なぁにが」
こういう時、大体は悪いことが起きる。
『来客は窓からだ。ドアの鍵を開ける手間が省けて良かったな』
「えっ?」
次の瞬間、僅かに室内を照らしていた月の光さえも遮られた。
窓の外、逆光となった巨大な影によって。
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