大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
2,003 / 2,022
外伝

開発部の中

しおりを挟む
扉の奥は雑然とした物置じみた部屋。驚くほど広いくせに、その広さを狭いと感じるほど物を雑多に積まれた部屋は、お世辞にも綺麗とは言えない。
「………きたな…」
「本音出てるぞアベル。分かってるとは思うが、絶対触れるなよ」
「はい。崩れると困りますからね」
どうやったらここまで高く詰めるのか。見るからに重そうな、そして一目見ただけで用途が分かるような剣や槍、鎧などから始まり、ベルトのような鞭、あるいはその逆のような物、龍の置物にしか見えない何か、時たま明るく発光する鏡や「予算寄越せ馬鹿野郎」と彫りこまれた鉄板などと、訳が分からないものも大量にある。
共通していることと言えば、どれも雑に積まれていることと、何かしら張り紙が貼られている事だろう。「失敗作」や「未完成」、「俺のモン」………中には「差し押さえ」などと貼ってある。
「……あぁ、お前はここに入るの初めてか。しかし誰もいないな…」
「?」
足の踏み場もないような部屋の惨状だが、慣れた様子でひょいひょいと部屋の奥へと進む少女。
仕方なくアベルもその後を追い、部屋の奥へと進んで行く。
「どこに行くつもりですか?兵装開発部長はどうもいらっしゃらないようですし、早く戻りましょう。パレード明日なのですから、色々と決めなければならないことがありますよ」
「どこに行くってお前、言ったじゃないか。兵装開発部長の所だって。ここは物置なんだから、開発部長がいるわけないだろ?」
「……じゃあなんで僕にノックさせたんですか」
「前はここが開発部長室だったからな」
「はい?」
「その前は実験場、そのさらに前は廃棄場、さらにさらにその前はまた物置だった」
「……どういうことですか?」
「仕組みは知らんが、兵装開発部は毎回扉を開くたびに部屋の位置がシャッフルされるんだと。何代か前の部長が『どこにでも通じる扉』を作ろうとして失敗したとか聞いた。ほら、扉だ。開けろ」
再び示された鉄の扉を、アベルがノックをして扉を開く。
「はーい、ってあれ、黒鎧の副隊長さん?お久しぶりです」
人がいる部屋に当たったのはさらに扉を四つ開けてからだった。
「クララ……だったか?一年半ぶりだな。その様子だと、前に会ってから一度も出れてないのか」
「はい。あぁいえ、出れてないんじゃなくて、出てないんですよ?ここはご飯もありますし、少しだけですけど娯楽もあります。別に不自由はしません。住めば都って奴ですよ」
グルグル眼鏡に三つ編みと白衣の少女が、湯気のたったコーヒーを一度下ろし、笑いながらぽてぽてと近づいてくる。
「あの……隊長、この方は?」
「クララ。兵装開発部の職員の一人だ」
「あ、初めまして。あなたがアベルさんですか?お話は前に少しだけ副隊長さんから聞きましたよ」
ぺこりと頭を下げるアベルと、それをほぼ完全に無視したクララ。黒鎧の彼女はそのまま話を続ける。
「こんな奴ばっかりだから兵装開発部は変人の集まりだって言われてるんだろ。あと俺はもう副隊長じゃない。一個上に上がって黒鎧隊長だ」
「それはそれはおめでとうございます。ところで右腕は付け外し可能でしたっけ?兵装開発部ウチ全自動戦闘機オートマタなんて作ってたっけなー?」
「俺は生身の手足しか持ってないよ。今回はそれに関しての話でな。開発部長はどこだ?ずっと迷ってて困ってるんだ」
「部長ですか?真面目に仕事をしてるなら部長室ですね。してないなら、こっそり抜け出して街に繰り出してるんじゃないでしょうか」
「そうか。それじゃあとりあえず部長室まで繋げてくれるか?」
「はーい。この扉の扱い、慣れないと難しいですもんね」
クララがそう言うと、手近な扉をノックしてから一言「失礼します、お客様です」と言ってから開ける。
「どうぞ」
「ほらアベル、行くぞ」
「え、あっ、はい」
さっさと行ってしまう彼女を、アベルが慌てて追いかけ、扉の向こうへと進む。
パタリと閉じた扉を見、クララが一人でコーヒーを啜り、小さく呟く。
「ぬるくなっちったな」
視線じっとそのまま、扉の方を向いたままで。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

種族統合 ~宝玉編~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:481

まほカン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:94

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:666

処理中です...