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本編
期待と賭けるもの
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「うーん、何なんだろうか…」
明るい声色をした男の声。その声で意識が戻った。
「がふっ!」
血を吐く勢いでせり上がってきたものは胃液。喉を焼く胃酸が俺の口から吐き出され、なんとも言えないざらつく嫌悪感が喉にへばりつく。
くそ、どのぐらい意識が飛んでた?
『知らん。お前の意識がなかったら俺もないからな。マキナに聞け』
「あ、もう起きたのか。十秒もしないで起きるのは流石二つ名持ちだね」
「十秒、か…」
聞くまでもなかった。ウィルって戦闘中でも喋りが止まらないのか。意識してやっているのか、それともそういう癖なのかは分からないが、ここまで饒舌なのもめずらしい。独り言も多いしな。
っつーかどうでもいいけど、制服使ってるからお前が鎧着てる着てない知らねぇしよぉ。
「レィアさんさ、もしかして本気出してない?」
「あ?」
心の中で愚痴っていると、首を傾げ、顎に手をやり、まさに「悩んでます」って感じで声をかけてくるウィル。剣も手放しており、左腕に固定されている盾さえなければいつもの日常、その一コマにも見えるだろう。
「ンな訳あるかよ。伊達や酔狂で殺し合い一歩手前のこんな戦いやるか?」
鎧と髪があって良かった。もしもどちらかが無かったら一発で肋骨が折れて重傷コースだっただろう。
「そうかい?けど僕は何度か君の戦いを見ている。たとえば二つ名持ちになるための争奪戦、たとえば聖学祭の西学に攻められた時、直には見れなかったけど、ギガースと戦った時も凄かったらしいね。竜になったルトと戦って勝ったりもしたそうじゃないか」
「……何が言いたい?」
口元を拭い、膝に手を当てて立ち上がる。まだ手足は動くな。少し手先が痺れるが、このぐらいなら問題は無い。黒剣の片割れを拾い上げて握る。
金剣はウィルの近くに転がっている。どうも殴られた時に手を離してしまったようだ。
「君はどうしてか分からないが、実力を縛っているね。意識してか無意識か、それとも外的要因で実力が出ないのかは知らないけど、ね」
こいつ、まさか血界の事を言ってんのか………?
『使うなよ』
あぁ。
「生憎、なんのことを言っているのかさっぱりだ。期待外れだったか?そりゃ悪かったな。元々こんなモンだよ、俺は」
「本当に?いいや、そうじゃないだろう」
ウィルの目が力強くこちらを見返す。
俺の奥の奥、身体の内側まで見通すような強い視線。
「──あぁ、分かった。君の力の源が」
納得いったようにウィルが頷く。
「聖学祭の時は《雷光》…仲間、ギガースの時はクラスメイト、ルトの時と争奪戦の時は何か知らないけど…多分なにかあったんだろうね。ともかく君は、何かを守る時にその力を発揮するみたいだ。なるほど、緋色の眼をした騎士か。誰が言ったか知らないけれど、確かに君らしい」
「…何言ってんだ?」
「気にしなくていいよ。しかしそうだな…君が本気になるためなら、こういうのはどうかな?」
決闘をしよう、そうウィルが言った。
「賭けるのは──そうだな、僕の全てだ。君が勝ったら、僕は君の下僕になろう」
「は?いやちょい待て、何言って──」
「代わりに僕が勝ったら──うん、そうだ。進級を辞退して荷物まとめて実家に帰ってくれるかな?」
「は?馬鹿言ってんじゃねぇよ。誰がそんなのを受けるんだよ」
「でもね、レィアさん。悪いけどここは聖学なんだ。最も力を持っているべき二つ名持ちが、大して力もない癖にこの学校に二つ名としている──もしそうなら、僕は全力で君を叩き潰す。多分、君の身体が生涯介護が必要になるレベルで潰す。そんなことも考える必要が出てくる。それが僕、《勇者》が最後にやるべき仕事だ」
恐ろしく真っ直ぐな瞳。
間違いない、本気だ。
明るい声色をした男の声。その声で意識が戻った。
「がふっ!」
血を吐く勢いでせり上がってきたものは胃液。喉を焼く胃酸が俺の口から吐き出され、なんとも言えないざらつく嫌悪感が喉にへばりつく。
くそ、どのぐらい意識が飛んでた?
『知らん。お前の意識がなかったら俺もないからな。マキナに聞け』
「あ、もう起きたのか。十秒もしないで起きるのは流石二つ名持ちだね」
「十秒、か…」
聞くまでもなかった。ウィルって戦闘中でも喋りが止まらないのか。意識してやっているのか、それともそういう癖なのかは分からないが、ここまで饒舌なのもめずらしい。独り言も多いしな。
っつーかどうでもいいけど、制服使ってるからお前が鎧着てる着てない知らねぇしよぉ。
「レィアさんさ、もしかして本気出してない?」
「あ?」
心の中で愚痴っていると、首を傾げ、顎に手をやり、まさに「悩んでます」って感じで声をかけてくるウィル。剣も手放しており、左腕に固定されている盾さえなければいつもの日常、その一コマにも見えるだろう。
「ンな訳あるかよ。伊達や酔狂で殺し合い一歩手前のこんな戦いやるか?」
鎧と髪があって良かった。もしもどちらかが無かったら一発で肋骨が折れて重傷コースだっただろう。
「そうかい?けど僕は何度か君の戦いを見ている。たとえば二つ名持ちになるための争奪戦、たとえば聖学祭の西学に攻められた時、直には見れなかったけど、ギガースと戦った時も凄かったらしいね。竜になったルトと戦って勝ったりもしたそうじゃないか」
「……何が言いたい?」
口元を拭い、膝に手を当てて立ち上がる。まだ手足は動くな。少し手先が痺れるが、このぐらいなら問題は無い。黒剣の片割れを拾い上げて握る。
金剣はウィルの近くに転がっている。どうも殴られた時に手を離してしまったようだ。
「君はどうしてか分からないが、実力を縛っているね。意識してか無意識か、それとも外的要因で実力が出ないのかは知らないけど、ね」
こいつ、まさか血界の事を言ってんのか………?
『使うなよ』
あぁ。
「生憎、なんのことを言っているのかさっぱりだ。期待外れだったか?そりゃ悪かったな。元々こんなモンだよ、俺は」
「本当に?いいや、そうじゃないだろう」
ウィルの目が力強くこちらを見返す。
俺の奥の奥、身体の内側まで見通すような強い視線。
「──あぁ、分かった。君の力の源が」
納得いったようにウィルが頷く。
「聖学祭の時は《雷光》…仲間、ギガースの時はクラスメイト、ルトの時と争奪戦の時は何か知らないけど…多分なにかあったんだろうね。ともかく君は、何かを守る時にその力を発揮するみたいだ。なるほど、緋色の眼をした騎士か。誰が言ったか知らないけれど、確かに君らしい」
「…何言ってんだ?」
「気にしなくていいよ。しかしそうだな…君が本気になるためなら、こういうのはどうかな?」
決闘をしよう、そうウィルが言った。
「賭けるのは──そうだな、僕の全てだ。君が勝ったら、僕は君の下僕になろう」
「は?いやちょい待て、何言って──」
「代わりに僕が勝ったら──うん、そうだ。進級を辞退して荷物まとめて実家に帰ってくれるかな?」
「は?馬鹿言ってんじゃねぇよ。誰がそんなのを受けるんだよ」
「でもね、レィアさん。悪いけどここは聖学なんだ。最も力を持っているべき二つ名持ちが、大して力もない癖にこの学校に二つ名としている──もしそうなら、僕は全力で君を叩き潰す。多分、君の身体が生涯介護が必要になるレベルで潰す。そんなことも考える必要が出てくる。それが僕、《勇者》が最後にやるべき仕事だ」
恐ろしく真っ直ぐな瞳。
間違いない、本気だ。
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