大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

着地と門兵

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今回、俺が考えて実行に移したのは頭がおかしいんじゃないかってぐらいシンプルな方法。
見つかったら不味いけど、見つかっても目視出来ないぐらい早かったら問題ないんじゃね?
という訳で、血呪の強化された身体能力で血瞬の瞬間移動じみた速度で跳躍、白キノコ屋根の目立つ建物の屋根に着地し──思った以上にツルツルと滑る屋根に抵抗すらせず、そのまま重力に引かれて落ちた。ただし、その先での着地は軽やかにこなしたが。
「し…死ぬかと思った……死ぬかと思ったぞ《勇者》ぁ…!!」
「死んでねぇから……セーフな……つかお前……死なねぇって……言ってたじゃん……自分で……」
不味い、血を一気に消費しすぎたらしい。疲労が酷い。呼吸が上がったまま戻らない。 立ちくらみがする。
「おい貴様、大丈夫なのか?」
髪で掴まれたシステナが、宙吊りになりながら俺の身体を心配するような言葉をかける。
「………大丈夫だ。行こう」
耳の奥で、あまり聞きなれないキーンという音がなり続ける。首の後ろあたりが変に気持ち悪い。吐き気はないが、代わりに絶えず胸がむかむかする。
ここにきて溜まっていた疲労が身体に現れやがった。
「顔が青いぞ。少し休んだらどうだ?余としても貴様が倒れるのは少々困る」
「こんな所で休んでる暇は無ぇよ。それに──」
「仲間のためか?殊勝だな」
「あ?よ。……いや、それも無くはないが、理由としてそれより大きいのがあるな」
「…?では何のためだ?」
マキナにさらにもう一度逆探知を使わせ、この建物の中であることを確信してから入口を探す。
「俺を罠にハメた奴を締め上げるため、だな」
「それは…たとえ仲間であってもか?」
「さぁ?場合によるかな。ただ、あいつらがそんなことをすると思っちゃいない。犯人の魔族をシメて、そのついでに仲間を助ける」
ぐるりと半周して入口を発見…と、何か知らんが門番っぽいのが二人も…それも武装してる。ここってかなり重要な施設なのか?
ともかく、争い事はバレそうだからやりたくない──が…どうすればいい。
「何故だ?なぜ信じる。血を分けた訳でもないのに、なぜ信じられる」
「血を分けてないから信じられないなら、俺は誰も信じられないぜ。そんな世界は…寂しすぎるだろ」
「貴様には古き勇者がいるであろう?寂しい訳がないではないか」
どうするか……二人を一瞬で仕留める?……やれるか?今の俺に。他に手段は──
「そもそも、その初めから《勇者》とはシステムである。『寂しい』と思う訳が無いであろ──」
「本当にそう思わないなら、俺は今ここに居ねぇよ」
システナの言葉を遮り、そう言ってから銀剣を出す。覚悟は決めた。
勝負は一瞬。
体重を前方に傾けるように乗せ、一気に駆け込むように斬る──
「『眠れ』」
僅かに甘い匂いのする風がふわりと舞い、その直後に魔族がドサドサと倒れる。
「なん──」
「気にするな。余が魔術で眠らせただけだ」
こともなげにシステナが言うが…それとんでもない技なんじゃないか?
「今回だけ手伝ってやろう。余としても貴様がここで果てるのは困るのでな」
「…さっき聞いたぞ」
そう言うと、ふいと目をそらすシステナは、外見相応の少女のように見えた。
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