大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔法と発想

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魔族の都市、その街並みは目を見張るほど美しく、にぎわっていた。
あたりもまだまだ明るく、日が落ちる気配はない。
「…くそ、魔族ってのは数が減ってたんじゃないのかよ…」
「いくら数が減っておるとは言え、残り数人というわけではないのであろう?この程度は予想出来て当然ではないか…」
もちろん愚痴りはしたが、本気で言っているわけではない。
倉庫から出、すぐさま俺達が入ったのは細い路地。今はそこからこっそり覗くようにして外の様子を伺っている。
少し顔を出せば、路地に面した大通りを歩く魔族たち。ここから見えるだけでも十人前後の魔族がいる。
その光景に、俺は吐き気にも似た強烈なを抱いた。
──殺したい。
「……ッ」
いくら《勇者》としての本能のような魔族への殺意が随分と薄らいだとは言え、これだけいれば、《勇者》である以上身体が半ば勝手に反応してしまいそうになる。
それをねじ伏せ、何でもないような風を装って、傍らの金の髪を持つ少女に声を掛ける。
「どうするか…なぁ神サマよ」
「なんだ?《勇者》よ」
「距離的に多分、あの白くてデカいキノコみたいな建物なんだが、そこまで誰にも気づかれずに行ける魔法とか魔術とかなぁい?」
「そんな便利なもの、魔法にも魔術にもあるわけがないだろう」
だよなぁ…
直線距離で一キロ弱ねぇ…
それも、種族的に俺達ヒトより感覚が鋭い魔族にバレないようにしながら、か。
いや、少し発想を転換してみるなら……
「なぁ神サマよ」
「今度はなんだ《勇者》よ。もう一度言うが、貴様の言うような便利な魔法はないぞ?魔術もだ」
「……いや、そうじゃなくてな。お前、魔法とか魔術に詳しいんだよな?特に結界みたいなの」
「…余の結界をそこらの魔法、魔術と同じだと申すのか?」
あ、なんか踏んだ?
「安心しろ。そういう意図は欠片もないから。……で、どうなんだ?」
「少なくともこの地上で比肩出来る者はおらぬな」
流石神サマってところか。さらりとすげぇ事を言ってやがる。
「ならよ、さっきの白キノコの所まで何か結界とか障壁とか張られてないか…わからないか?」
「む?……おい貴様、そこに跪け」
「は?なんで…」
そう言いつつ言われたとおりにすると、システナは俺の上に登り、「良いぞ」と言った。恐らく立てという事だろう。
「……身長足りなかったのか」
「何か言ったか?」
「いやなんでも」
肩の上で立った女神サマが、細い路地から辛うじて見える白キノコを睨む。
「無いな。強いていえば、空へ向けて魔法が展開されておるが…空を飛ぶ魔獣の対策であろうな」
その程度なら…大丈夫か。
「…貴様、何を企んでおる?」
「第二血界──《血呪》」
女神サマの言葉を無視、第二血界を全身に展開する。
「おら、しっかり掴まれよ、女神サマ。振り落とされんようにな」
「お、おい?」
「第六血界──《血瞬》」
心臓に刻まれる血の紋。それが俺を限界まで加速させる。
「行くぞッ!!」
絶対に聞こえてないであろう一声をかけ、俺は白キノコ型の建物目掛けて──飛んだ。
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