大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔蟲と愚痴

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歩き始めて一時間、マキナの指示に従って砂と石、たまに枯れ木が見えるだけで、正直飽きてくる。
あぁでも。
こういう刺激はあるな。
『今代の』
「ん?」
『下』
「ん」
シャルの短い言葉に短く返し、軽く後ろに跳ぶ。
直後、地面を割って出てくるのは巨大な芋虫とムカデを掛け合わせたような魔獣。多分これはそのまま虫の魔獣だな。元はどんな虫だったか知らんが。
『デカいな。見えるだけで七…八メートル?十メートルぐらいはあるな』
「どうでもいいさ。そんな事」
俺の手には銀剣。いや、既に抜剣しているため黒剣と銀盾か。
「せいッ!!」
思い切り魔獣の方へ銀盾を投げ、同時に助走を始める。
魔獣はそれをひょいと避け、奇声をあげながら口を開く。その口から見える緑の液体は胃液かなにかだろうか。
「遅せぇ」
既に俺は助走を終え跳躍に移る。
「《血呪》」
その瞬間、足元が爆発したように爆ぜる。
戦技アーツは不要。剣と純粋な力だけでぶった斬る。
「一太刀──」
斜め上に跳躍した俺がすれ違いざまに魔獣の身体を切断。崩れ落ちる魔獣。
しかし魔獣も身体が真っ二つにされようと止まらない。
落ちてゆく身体を捻り、口内に溜めた液体を吐こうとこちらへ向く。
空中ならば身動きは取れない。なるほど、これならまず外しはしないだろう。
だが、虫が最期に見たのは、空中で藻掻く哀れなヒトではない。
空中で銀盾を足場にして追撃をさらに叩き込む無慈悲な狩人だ。
「二太刀」
地面へ向けての二度目の跳躍。銀盾を蹴飛ばして、今度は随分と高さを失った魔獣の頭目掛けて。
「ッ、せいッ!!」
縦に切り裂かれた頭は流石にどうしようも無くなったらしい。
ごぼっ、と緑の液体が吹き上がり、自らの身体を溶かしていく。やっぱり胃液か何かだったらしい。
「あーあ。結構いい獲物だと思ったんだがなぁ…」
『なら縦に真っ二つとかすんなよ』
「まぁ、獲物は一応最低限ぐらいは取れてるからいいっちゃいいんだが……」
一時間経っただけなのに、流石結界の外。魔獣がうようよとのさばっており、魔獣同士で潰しあってもいた。結界の中じゃ中々見ない光景だったが、別に何度も見たいとは思わなかったかな。
「マキナ、この調子じゃ、あとどれぐらいかかりそうだ?」
『不明です・しかし・これだけ歩いても・目視すら出来ないとなりますと・余程大きな媒体・あるいは儀式と想像がつきます』
「ふむ……」
かなり大掛かりなアイテムか…あるいは儀式、ねぇ…
儀式、ねぇ…
儀式、か。
『あくまで可能性だろう?…あ、俺の声はマキナに聞こえないのか』
「だが、儀式の可能性も充分あるんだろう?」
なら探すか。
「しかし何を目安に探せば見つかるのかね。魔力見続けるのも目が疲れるしな…」
そろそろ日も落ちる。焚き火の用意も考えなきゃなぁ…え、まさか木を擦って綿とか使って火を起こさにゃならんのか?
『マスター』
「ん、どうしたマキナ」
そうかー、普通なら魔法でちょちょいのちょいだもんなー、え?シャル、何だって?言い方が古い?黙らっしゃい。
『右に三メートル修正です』
「あ?はいよ」
だいたいこの辺か。んじゃさらにこの方向に歩き続けて──
『ここです』
「………あ?」
『この真下・あるいは真上がポイントです』
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