大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

解禁と不安

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久々という程でもないが、三日も大人しくしていると、やはり身体が疼いてくる。
『まずはどこに行くんだ?』
朝飯も終わったし、とりあえずは……
「やぁレィア。怪我は治ったのか?」
「よぉユーリア、怪我は先生から運動してもいいって許可をもらう程度にゃ良くなったぞ。そらより丁度よかった。探そうとしてた所だ」
曲がり角を曲がったところで偶然ユーリアと顔を合わせる。
「それは嬉しい限りだな、師匠。ところで怪我が治った事は、アーネも知っているのか?」
「さぁ?何回か保健室こっちに来たから、知ってるんじゃねぇか?」
「と言うことはまだ会ってないのか…ふむ。レィア、先にアーネの所へ行ってやれ」
「うん?何でまた」
「いいからいいから。それと、私の方もそれなりに進んでいるから、後で見てくれないか?」
「それならお前を先に──」
「いいからアーネの方へ行け。な?シエルも待っているんだろう?」
それもそうだな。
「私は先に行っている。訓練所でいいか?」
「どこでもいいぞ。場所さえあればな」
そう言ってユーリアと別れる。あいつは早速訓練に向かうらしい………羨ましい。
『羨ましいって…お前な』
仕方ないだろう?こっちだって身体を動かしたいんだ。
廊下を引き返し、ひとまず自室へ向かう。そう言えば学校の中にいて、三日も自室に戻らないなんて中々ある事じゃなかったな。何となく変な気分だ。
鍵を髪から取り出し、部屋の戸を開ける。
「ただいま──っと。なんだ、誰もいないのか?」
冷たい陽の光が差す部屋の中を見渡すが、どうやらアーネもシエルもいないようだ。
『いや、シエルならいるみたいだぜ?』
「ん?」
『ベッドの方』
シャルに言われてそっちの方に行ってみると、僅かに上下する布団の塊が。
…これ?
『それ』
そっと顔を近づけると、微かな呼吸音。ここに顔があるのか?窒息したりしてないよな?
少しずつ布団を捲っていくと、シエルの顔がようやく現れる。
「……ん?」
『どうした?』
「なんか……」
違和感が、あった。
ぞわりと背中を走る嫌な感覚。
何かが違う。決定的なまでに。
いつもと同じ白の髪。
いつもと同じ黒の肌。
いつもと同じ幼い顔。
だが──心でも身体でもなく、本能たましいがそう叫んでいた。
ふと、聖学祭最後の日の事が脳裏を過ぎった。
思い出したのは、豹の目をしたあの女。
まさか。
しかし否定出来る素材はない。
前兆などは無かった。
だが、話には聞いていた。
八割だと言っていた。
二割に賭けると言った。
「──おい、シエル、起きれるか?」
少し控えめに、けれど少し焦って頬を叩く。
「………んぅ?」
パチリ、と目を覚ましたシエルが眠たげにこちらを見上げる。
「………あ、おかあさん。おはよう」
「…あ、あぁ。おはよう、シエル」
よかった。どうやら俺の思い過ごしだったらしい。シエルは特に変わりないようだ。
「悪いが、アーネがどこにいるか知らないか?」
でも──なんだ?
なんでまだ──背中がざわめくんだ?
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