大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

無音と刃

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静かな朝、妙な重さを身体に感じて目が覚めると、どす黒い棒の先端が目の前にあった。
「………?」
次の瞬間音もなく、しかし尋常ではない勢いでそれが俺の喉目掛けて振り下ろされる。
「……っ!?……!?」
はぁっ!?と言っても声が出ない。喉が潰れているとかそういう理由じゃない。
声が掻き消える。口から発した途端、煙のように消えた。
って、それどころじゃねぇ!!
横に転がり回避しようとするが、がっちり身体を固定されて動けない。理由は分からないが、慌てて首だけ動かし、辛うじて回避。
棒がベッドの底を貫き、床の方へと抜けていくがその時も音がない。スキルか?
棒が抜ける前に起きようとするが、やはり動けない。
起きてからずっと感じてる腰の違和感の正体を見るため身体を起こそうと、少し首を起こしただけですぐに全てがわかった。
身体の至る所に包帯を巻いた《黒法師》が、俺の上に跨り、マウントポジションを取っていた。
跳ね除けようとするが、足でがっちりベッドを掴んでいるらしく、簡単には逃げられない。
《黒法師》が棒を引き抜き、もう一度俺に振り下ろす。
それに髪を絡ませ、再び喉に叩き込まれようとしていた棒をブレさせ、ズレさせる。
「「っ!!」」
俺達のが重なる。
さらにベッドを貫いて棒が刺さり、それとすれ違いざまに勢い付けての頭突きヘットバット
目から星が飛びそうなほどの衝撃。大きく仰け反る《黒法師》と歯を食いしばって耐える俺。
「かはっ」
可愛らしい声が可愛らしくない言葉を吐いた。
その瞬間、泡が弾けるような音がし、音が溢れる。
軋むベッド、流れる風、漏れる息遣い、僅かな衣擦れの音、自らの心臓が狂ったように鳴らす心音。それらがまるで急に思い出したかのように騒ぎ始める。
いや違う、今の今までその音が消えていたのだ。
なんにせよ、今ならカーテンが少し開いている。音は外に聞こえるはずだ。
「っ先生!!いるか!?助けてくれ!!《黒──」
トン、と。
心の底から冷たい、と思えるような凶器えものが喉に当てられる。
ボードなど無くても目を見ればわかる。《黒法師》が「黙れ」と言っていた。
板を取り出し、そこから伸びている紐に首を通した彼女は、静かに質問する。
『あなたに指示を出した魔族は誰ですか?』
「ンなモン……いねぇよっ…!!」
睨みながらそう返すと、眉をひそめた《黒法師》が棒を回転させ、真横から俺の首を打ち据える。
「っが…!?」
『嘘は要りません。あなたの飼い主は?』
「居ねぇっつってんだろうが」
「嘘の刃」
《黒法師》がそう言った途端、棒の逆側にどす黒い刃が生まれる。
『では、神に祈っていてください。どの神かは知りませんが』
次の瞬間、再び《黒法師》の手元が見えないほど素早く動く。
真っ黒の刃が俺の胴を薙ぎ払った。
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