大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

治療と魔法

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じゅっ…と五センチ四方の鉄板が俺の肌を焼き、少し強引に傷口をくっつける。
自分の肉が焼ける匂いだというのに、僅かに「うまそうだな」なんて思ってしまった。
「……これで終わり、かな。アーネさん、治癒魔法行ける?」
「大丈夫、行けますわ」
俺の左胸の穴を柔らかく包む治癒の光。それが彼女のスキルで《圧縮》され、強力な復元魔法には及ばないものの、それに近い効力を発揮する。
途端、強引に癒着させられた傷口はもちろん、焼けた肌も治癒され、みるみるピンク色の肌が盛り上がり、綺麗な肌になる。
「よくやったね。お疲れ様、アーネさん」
「ありがとうござい…ますわ」
「あとはやっておくからアーネさんは帰って休んでおきなさい。君にも休息が必要だ。レィアくんは今日はこっちで泊まってもらうよ」
「あぁ、頼む」
『為になったか?』
かなり。やっぱり本職の手際は凄いな。
「助かった。二人共、ありがとうな」
「心臓の位置が普通とは大きく外れていて驚いたよ。もっと早く言ってくれたら良かったのに」
「悪い。言い忘れてた」
というか、普通はそうしないと死ぬだろ。
『普通はそうしないから死んでんだよバカ』
シャルの切り返しにぐうの音も出ない。まぁ、ここまで動かせるのは俺ぐらいだろうし。
「あと十分程で一時間半…結構かかったなぁ」
「先生の話を信用しなくてよかった。もし一時間きっかりだったら、激痛でのたうち回ってたかもしれねぇんだぞ」
「……信用してないって言い方酷いなぁ」
そう言って首をかくん、と下に折り、オーバーなぐらい「傷ついてます」アピールをした後、突然先生が人差し指を突きつける。その次に中指と薬指も伸ばす。
「な、なんだよ」
「三日」
短くそう言った先生の意味はすぐにわかった。
「三日間も寝転んでろってか?身体が鈍っちまうどころか腐っちまうだろ。ましてや大南下も迫ってる。三日も寝てたら残りの時間は半分になっちまうよ」
「だからこそだよ。君の身体、結構ガタが来てるよ?ここで休まなかったら大南下中にそのツケが払わされるかもしれない」
とん、とん、とん、と。
感覚が無い身体を次々に触っていく。
「今触った所、多分ここ一年…もしかしたら半年内かな?怪我したでしょ?それもかなり大きな」
「そりゃまぁ、最前線で身体を張るのが前衛だしな」
「それを全て回復魔法か治癒魔法に頼りきった方法で治した。違うかい?」
「いや、違わない」
先生が溜め息。それも大きな。
「いいかい?回復魔法や治癒魔法は別に万能じゃない。かりに復元魔法であってもそれは変わらない。その事をよく覚えておいてくれ」
今日はもう疲れた。寝るよ。そう言って先生はすぐ近くのベッドで寝てしまう。
…ともかく俺も寝るかな。
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