大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

食堂と命令

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その日の夕方、クードラル先生にしこたま怒られて絞られた訓練を終え、しばらくしてからアーネ達と食堂に向かうと、食堂の中がいつもよりやかましい。
「………。」
『間違いなく…だな』
朝の件をこっそりと聞いていたらしいシャルがそう言い、分かりきっていたことに俺も眉を寄せる。
「アンジェさん…ですの?」
「それしか心当たりがねぇなぁ…」
溜息を一つ漏らして食堂に入る。
「──私が次に求めるのはっ、」
食堂の一番目立つ、上等な中央の席。
普通なら《猫》か《犬》…最近、勢力均衡が崩れてからは《犬》達がよく座るようになっていた席だ。
そして今は、そんな所には絶対に座れないような奴が座っている──どころの騒ぎではなく、上等な椅子とテーブルを足蹴にして──……いや、足蹴にしてというのも温いか。
ありのままに言ってしまうと、こともあろうにアンジェはテーブルの上に両の足で立って宣言していた。
こんな風に。
「《緋眼騎士》ィ!!アンタの泣きっ面だ!!」
食堂中の視線が一気に俺へと注がれる。
「………オバチャン、今日の飯何?」
「ちょっと待って!?なんで無視出来るの!?」
ぎゃんぎゃん騒ぐ青い頭の西学生徒を完全無視、無愛想な顔に「アレをどうにかしろ」と大きく書いてあるオバチャンに「俺のせいじゃない」とアイコンタクトを返してトレイを受け取る。今日は……うん、揚げ物か。美味そうだ。
手近な四人席を探して座る。向かいにはアーネ、隣にはシエルが座っていつも通りの夕食がいつも通りに過ご──
「ねぇ、なんで無視するの?」
せなかった。
テーブルの上にトレイを置いた瞬間、俺の目の前に今さっきまで大騒ぎしていた張本人がしゃがみこんでメンチを切っていた。
「よぉ青坊主。とりあえずそこから降りたらどうだ?テーブルの上に載せていいのは、美味いメシと読みかけた本、ついでにそれを理解出来ない猿だけって親に習わなかったか?」
「ごめん、言ってる意味がわかんない。私はアオボウズさんじゃないし、猿はテーブルの上に載せないし、けどご飯や本以外もテーブルの上に物を載せると思うんだけど」
舌打ちを小さく鳴らす。根本から理解してねぇから皮肉も効きやしねぇ。
「とりあえず降りろ。邪魔だ。飯が食えねぇ」
「ねぇ」
アンジェがさらに顔を近づけてくる。ほとんど額がくっつくほどの距離。
「なんで無視したの?」
近づいたその目は驚くほど虚ろ。青の底は何も映さない。
「………?」
俺が最初に会ったアンジェはこんなにも…なんと言うか…ヤバい奴だったか?
『この目…狂信者とかに近いな』
シャルがそう言う。後から話を聞くか。
「無視はしてねぇぞ。俺の泣きっ面がお望みだって?そりゃ残念。俺は泣いたことがないんだ」
「…嘘つきですわね」
ボソリと呟いた赤髪の女をキャベツの芯を指先で弾いて撃退する。
「じゃあ受けてもらうよ。《緋眼騎士》レィア・シィル、私と決闘して」
驚くほどシンプルな申し込み。
だから俺もシンプルに答えた。
「断る」
「なんでっ!!」
俺が短く、しかしわかりやすく否定したと同時にアンジェが激昴する。
しかし。

それを否定する、冷たい声が聞こえた。
「《緋眼騎士》はその決闘を受けます」
「……よぉ学校長。なぁに勝手に決めてくれちゃってるの?」
それに割り込んだのはこの学校を仕切る長。彼女がここに来ることなど滅多にないというのに…お陰で食堂が一気に静かになった。
「《緋眼騎士》に命令します、この決闘を受けなさい」
命令……ふぅん。
「高くつくぜ」
「…承知しています」
なら仕方ない。
「アンジェ、話が変わった。受けてやるよ。いつやる?」
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