大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

睡魔と金剣

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飯も食って一休み、風呂から上がれば既に時刻は十時を回っていた。
いつもなら剣と血界の練習だが……今日は休もう。しかし、だからと言って寝ようとしても、ついさっき起きたばかり。眠れる気がしない。
と言うか、一応ベッドに入ってみたが、睡魔は帰った後。湯船にいた時は少しだけ顔を出していたが、着替えたらもういなかった。
アーネとシエルは余程疲れていたのだろう、俺が風呂に入る頃には既に寝ていた。
「………。」
二人を起こさないようにベッドから降り、テーブルの上にある備え付けのランプを小さくつけて椅子に座る。
いつもなら騒がしいシャルですらいない。あるいは既に俺が寝ている間に起きたことを察知して引っ込んでいるのかもしれない。
「………。」
静かに胸元から金色の剣を模した飾りを取り出し、首から千切り取るようにして金剣を具現化する。
俺の身長と大差ないほど…いや、むしろ俺より大きな剣、その刀身…特に刃のすぐ横に刻まれた謎の文字を先端から指でなぞり、つぶさに観察する。
金剣の外見は銀剣と全く同じ。オーソドックスな両刃の大剣、ただし柄は刀身に刻まれたV字の切れ込みに、半ば埋まるようにしてついているので鍔は存在しない。
数日前まで全体に波及するようにして入っていた亀裂は跡形もなく消えており、俺が昔から知っている金剣と違う点はほとんど無い。
亀裂が入る前と比べて違っている点は…柄周りが俺に合わせてやや変化したと言うこともあるが、やはり刻まれている文字が変化しているという事。
何か知らない言語の筆記体…のようにも見えるし、文字を見様見真似で書きたくった子供の落書き…のようにも見える。
銀剣を製作していた彼らが言う所のルーン…だったか?一瞬だけ見たあの文字と似ていないこともない。
そう言えばと、唐突に思い出す。
これと似た文字をまた別の所で見たような気がしたのだが…どこだったか。銀剣じゃない。銀剣もこれとそっくり…というか鏡合わせのような文字が刻まれているが、それとはまた別の何かに……ダメだ。思い出せん。
舌打ちをしつつ文字をなぞる指を目で追っていく中、他の剣で言う所の鍔に近い部分で指が止まった。
──読める。
ここの単語、このひとフレーズだけなら意味が分かる。読み取れる。
何故だ?何故急に読めるようになった?
可能性としては三つ。
一つ、闇の奥にあった扉をさらに開いたため。
一つ、自らが金剣であるアベルと会ったため。
そして最後。
「その両方、か…」
ぼそりと呟いてから読めるようになった部分の単語を丁寧になぞり、確認するようにして声に出す。
「『聖弾』……?」
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