大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

食事と大貴族

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「なぁレィア…」
「今度はお前か、ユーリア…」
翌日の朝、珍しく俺が男子のグループで飯を食っていた時、顔中の筋肉を総動員して渋面を作っているユーリアが、声をかけてきた。
「すまんな、少し緋眼騎士こいつを借りていいか?」
「お前、そんなこと言ったらこいつらが」
「え?あぁはい、それより俺らもう終わるんで席空きますよ。どうぞ」
こう言うに決まってるだろうが…
俺はみんなに何度も「普通に接する」ように言ったから随分良くなったが、基本的に二つ名持ちに対する他の生徒の反応と言えばこんなものだ。ましてやユーリアが大貴族の出なのは周知の事実。そうでなくとも二つ名持ちが厄介事を引っさげてくるのはよくある事だ。大体の生徒は面倒事に巻き込まれる前に逃げる。
実際、三人程いた男子はそそくさと立ち上がり、いつの間にか空にしていた朝食を片付けて食堂から出ていってしまう。
「……ユーリア、俺は今結構腹が立っている。理由は分かるか?」
「そうだな、例の西学の生徒がつい昨日まで纏わりついていたからか?」
「いや違──いや合ってんな。半分ぐらい。でもそっちじゃねぇ。俺が言いたいのは、二つ名持ちが声をかけるってのが、普通の生徒にとってどんな扱いなのか分かってんのか?」
俺の文句をスルーし、ユーリアは俺の向かいに座って飯を食い始める。
「知ってるぞ。羨望の的、そして目指すべき指標でもある」
本気でそう言ってるのならこいつ、馬鹿なんじゃなかろか。
「本当にそう思ってるならあんなふうに出てくかよ。…で、俺を借りたいってなんの話だ?また特訓でもつけりゃいいのか?」
「それはいいな。今日は少し予定があるが…明日にでも時間があったらしよう。けど違う」
一つ溜息を吐くユーリア。何かあったんだろう。それもよっぽどな何かが。こいつが溜息を吐くなんて軽く異常事態だぞ。
「どうした?実はサラダのニンジンが嫌いで食えないとかか?代わりに食ってやろうか?」
「何を言う。ニンジンはむしろ好物だ。どちらかと言うとトマトが…じゃなくてだな」
誰にも気づかれないよう、最小限の動きで周りに視線をやり、何かを探すような動作をしたあと、小さな声で俺に伝える。
「例の西学の生徒がしつこくてな。どうにかしたいんだが、何かいい方法は無いか?」
「あ?何?アンジェか?アンジェ・レムナントがお前の所に来てるのか?」
「あぁ。昨晩から私の所にしつこくな…最初は他愛ない話をしているだけだったのだが、私が寝ると言っても中々離れてくれなくてな。お陰で寝不足だ」
「その調子だと、朝、部屋の前で待ち伏せとか…」
「既にされた」
「マジか」
マジか。俺の時は流石にそこまでされてはいなかったが…
「マジだ。だから今、彼女を縛って私の部屋の前の廊下に転がしてあるんだが…」
さらっと爆弾発言したな。余程キているらしい。だが…
「それ不味くね?」
「もちろん不味い。この事が西学に知られたら──」
いやいやいやいや。
「じゃなくて」
「うん?」
「廊下なんて目立つ所に転がしといたら、通りがかった誰かが解いちゃうだろ。そしたらすぐにあいつが──」
「見つけた!《貴刃》!」
噂をすればなんとやら。
「それじゃあな、ユーリア。俺は飯が終わったから、ゆっくりアンジェと楽しんでてくれ。特訓は明日の午後からでいいか?」
「ちょっと待ってくれ、後生だから!頼む!」
もちろん無視。偶然俺は視界に入っちゃいなかったようだが、気づかれてくっつかれちゃかなわんからな。
『解決してやるんじゃなかったのか?』
んな事一言も言ってない。話を聞いてやるって言ったんだ。
さて、言い忘れていたが今日は土曜だ。何して時間を潰すかね。
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