大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

多頭竜と魔法

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ヤツキが走る。
剣筋は──見えた、右下から左上への切り上げ。
「ふッ!」
鋭く吐いた息と共に、黒の長剣が光の如く駆け抜ける。
狙いはハナから大本命──ヒュドラの首、俺達から見て右側の首だ。
高さとしては俺達の顔よりやや上、俺達には振るいにくい位置だが、そこからじゃないと首が分かれていない。
剣は容易く鱗を割り、皮膚の下の脂肪を引き裂き、ちょうど半ば、筋肉と骨まで斬った所で止まる。
『『『ギュルヲヲ!?』』』
「ッチィ!!」
ヒュドラの大きな驚愕の声と、ヤツキの小さな舌打ちが聞こえた。
「オ──ッ!!」
ヤツキは即座に長剣を逆手に握り、軽く跳躍。
黒の長剣を蹴り飛ばして強引に首を一つ飛ばす。
「とったぞ!!」
「アーネ!」
「分かってますわ!!」
既に用意されていた魔法陣から人の顔ほどの大きさの火球が風を切ってヒュドラの右側の首、その断面に見事着弾。肉が焦げる臭いが辺りに充満する。
「よし!」
「やりましたわ!」
さらにヤツキが空中で身体を捻る。蹴飛ばした剣を次は中央の首に狙いを定め、右上から左下へ加速をつけて──振りかぶる。
「ハァッッ!!」
今度は──半分にも剣が入らない。
「っ」
「何故剣が入らないんですの!?」
「あのトカゲ野郎…一瞬で学習しやがったな。ヤツキの剣に合わせて筋肉をシメやがった。これじゃあいくらヤツキの剣が弱いところを斬ることが出来るって言っても、一撃で両断は出来ねぇ…!」
そしてその隙をヒュドラが逃すわけがない。
『『ギュルヲヲヲヲヲヲヲ!!』』
バチバチと雷が跳ねる牙をむき出しにし、ヤツキへとその凶牙を向ける。
「しまっ」
ヤツキは黒の長剣を放棄、素早く後ろへ下がる。判断は間違っていないが──それは致命的な失敗でもある。
『『オル・ディ・バウラ・ゼルルム・グディ──』』
左端の頭が聞いたこともない言語で膨大な魔力と共に言葉を紡ぎ始める。
「竜魔法!?」
アーネが悲鳴にも似た声を上げる。どんな魔法かは想像はつかないが、どうなるかは分かる。どうせ竜種の魔獣が使うロクでもない魔法だ。この辺り一帯がに決まっている。
「おい!ことわりを貸せ!」
ヤツキがそう言う前に俺は既に金剣を投げていた。
それを見ることもなく受け取り、ヤツキがさっきよりも疾く踏み込む。
戦技アーツ
ヤツキの冷静な呟きが、ヒュドラの詠唱に
割って入る。
「《閃牙せんが》」
ぴうっ、と変な音が鳴った。
そして遅れてヒュドラの首がゴロリ、と転がる。
戦技アーツ閃牙せんが》は超速で駆け抜けた直後、即座に向きを変更。さらにもう一度超速で切り返す戦技アーツだ。
その戦技アーツで飛んだ首は──
──魔法が来る。
『グ・ユルヴーム──《ズェ・グルカ》』
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