大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

天井と床

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──『応援を求める!』
《雷光》はそう言った後、自分からメッセージを切った。
三階か…。
一個上だな、行くか。
『…かなりの振動が上から伝わっているが…大丈夫か?』
え、そんなの感じるのか?
こっちは一切感じないんだが…。
『あぁ。と言うかそこから三歩…いや、五歩後ろに下がれ』
「え?」
そんだけ下がったらさっきのぶっ壊れた教室に入るしか…。
『良いから早く入れ!』
『警告・マスター・退避を』
二人に言われた後に、身体が勝手に反応して後ろに跳ね下がる。
そして同時に本日二度目の爆発。
今度は上──天井から。
「なんじゃありゃ!?」
上から降ってきた何かはそのまま二階の床も突き抜け一階へ。
さらにもう一度破砕音が下の方でしてから、今しがた出来た穴を恐る恐るのぞき込む。
もうもうと立ち上る砂煙…あるいは埃がゆっくりと収まっていき、しばらくしてからようやく下の様子が見えるようになる。
砕け散った床、ひび割れた大地、所々に飛び散る鮮血、倒れ伏す女と無傷で立つ女。
片方は知らない女だが、もう片方、無傷の方はそれなりに知っている。
今回の候補者、リザ・クロヴェール。
しかし彼女の手には得物である黒くて頑丈そうな棒がない。
周りをよく探してみると、それはすぐ側で見つけることが出来た。
倒れ伏した女、その鳩尾の辺りに深く、深く。
まるでその女の墓標の如く突き立っていた。
リザはそれを軽く引き抜くと、女の腹からはとめどなく血が流れ続ける。それは脈動する生命力に合わせて漏れ出るようにも見えて──。
プッツン、と。
何かが切れる音がした。
そこで頭の中が一瞬真っ白になり、次いで真っ赤に埋め尽くされた。
何故かはわからない。見も知りもしないはずの彼女を襲ったリザを、ただただ許せないと身体が叫んだ。
それが俺の思考だったのか、あるいは《勇者》の血の悲鳴だったのか。
それとも、どちらでも無いのか、どちらでもあったのか。
分からないが、右手が懐に突っ込まれ、銀剣を出す直前に羽交い締めにされた。
「っ──!?なにしやがン」
「馬鹿者落ち着け!!お前が手を出してどうするんだ!?」
耳元で女の声。ついさっき聞いたような声が頭を小突くと、途端に真っ赤に染まった思考が落ち着く。
「──《雷光》か。悪かった。少し取り乱しちまった」
「気にするな。落ち着いたか?」
「あぁ。それより早く救護を──」
「上で《臨界点》が既に呼んだ。それにあの先輩は生命力を強化するようなスキルを持っているらしいから、死ぬことは無いと思う」
そんなのを誰から聞いたんだ、と言いかけてすぐにわかった。《臨界点》か。
今改めて見てみると、既に抜かれた棒の穴がほとんど塞がりかけていた。不死身かよ。
「とにかく、私達が今一番心配すべき事は負傷者の手当じゃないな」
「あ?」
「片付けだ」
……この穴も勝手に塞がらねぇかなぁ…。
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