大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

雰囲気と落下

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広場近辺にいなくとも、出店は普通に大通りに出ればいくらでもあった。
「…王都とかっていつもこんな風なのか?」
「あの…こんな風とは?」
「お祭り騒ぎって言えばわかるか?」
少なくとも、聖学祭中はずっとやってたんだろうな。
「いえ、そんなことは無いのですが…」
「俺が知る限り、ゼランバもアークリームも王都もどこも大体夜になったら出店出してる気がするんだよな…」
まぁ、ゼランバには一ヶ月以上いたから、毎日って訳じゃないのは充分知ってるがな。
「ですが、楽しむべき時は楽しまなくてはならないのです…でないと、心がもたないから…」
「あん?」
少し気になる事を言っていたが…ひとまず。
「ま、そろそろ降りるか」
流石にずっと屋根の上から見下ろすだけってのも面白くない。
ちなみに、今は抱き抱えてはないが、手はつないだまま。
しかし、聖女サマは一人でここを降りることが出来ない訳で、俺が抱えて降りるのは目に見えている。
「あ、安全第一でお願いします」
聖女サマが言うセリフが、どこか震えていたのは多分気の所為だ。
「あぁ、安全第一で、ついでにちょっとしたスリルも、だな」
振り向き、聖女サマの方を向いてそう言うと、日が落ちて、屋台や街灯の明かりだけの暗い中でもよく分かるほど聖女サマの顔が青くなっていた。
「私、そんなこと言ってな──」
ひょいと抱き寄せ。
「よっ」
そのまま後ろ向きに落ちる。
ちなみに建物の高さは体感二十メートルから二十五メートル程度。
普通に落ちたら即死or大怪我コースだな。
「ッッッ!!~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
パニックになる聖女サマをしっかりホールドし、暴れても大して問題ない程度に縛り、そのまま落ちる。
「ほっ」
空中で身体を捻って真下を向いていた頭を上に向け、聖女サマをソフトに抱き上げつつ蜘蛛のように何本もの足──に、見立てた髪をクッションにして着地。もちろん衝撃は全部吸収し切っている。
「あ、ああ、あ、あ…」
「どうだ?面白かったろう?」
カタカタと小刻みに震えながら俺にしがみつく聖女サマ。
よく見れば目元には涙も溜まっている。
明らかに楽しめた感じではないな。
『…流石に一般人にそれは刺激が強すぎたんじゃないか?』
『マスター・アリス様の心拍数と顔色が・異常な数値と色です・楽しめたとは・言えないかと』
二人からも非難された。
「し、死ぬかと思いました…」
着地してから思い出して、さらに怖くなったらしい。
カタカタがガタガタに変わっていた。
「…立てるか?」
答えは聞くまでも無かった。
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