大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

客と注文

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──「お前、俺の女になれ」
その言葉の意味する所は、早い話がこの男の恋人…あるいは伴侶となれという事だろうか。
それとも単純に、俺の身体が欲しいと言う事だろうか。
そんな事を出会い頭にのたまう男は、たしかに顔が整っているし、その背中に吊っている武器を扱うからか身体も引き締まっている。
なるほど、街で十人に聞けば九人ぐらいがカッコイイだの何だのと褒め言葉を男に言うだろう。
だがしかし。
「お断りだクソ野郎。お前の女になんか絶対ならねぇよ。ほら、客じゃねぇなら回れ右して帰れ」
俺は男だ。
こんなナリだが、こんな見てくれだが、何度でも言おう、俺は男だ。たとえ何度美少女だの何だのと言われても男だ。
当然ながら男色の毛はないし、こっちの男もそれは無いだろう…だって「女」になれって言ってるしな。
しかし、この場所で…このタイミングでそれを口に出すのは不味い。
だって俺、今からウェイトレスの格好して接客して、その後ミニスカ穿いてヒュドラと戦うんだぜ?
そんな男がいたら純粋に変質者だろ。
ついでに言うなら、店の評判もかなり落ちるだろうし。
そんな訳で俺が取れる行動はせいぜいこれぐらい。
男に対してしっしっ、と羽虫を払うようにして手を払うと、男は軽く舌打ちをしつつ「飲み物…なんでもいい」と近くのウェイターに注文する。
「帰ってくれりゃ楽だったんだが?」
「おっとレィアちゃん、それが客にモノを言う態度かな?」
面倒な。客じゃないなら~とかじゃなくて普通に追い出しゃよかった。
男を無視し、控え室に入る。
「あれが初日の夜に言った、あなたを探していた男です」
控え室の中には、不機嫌そうに眉を限界まで寄せた学級委員長が腕を組んで壁にもたれ掛かっていた。
「メッセージを飛ばしたのに、なぜ来たんです?」
学級委員長とは逆側の壁にはロッカーがあり、そこから俺の制服を取り出しながら答える。
「話を適当に聞いた感じじゃ、それよりも注文を優先した方が良さそうだったんでな」
今頃厨房は大忙しだろう。俺が知ったこっちゃないが。
「えぇ、お陰でメニューは戻せそうですが、代わりに厄介事を引き込んでくれましたね。どうするつもりですか?」
学級委員長の目は鋭い。
「どうするつもりって言ったってな…飲み物頼んだから、飲んだらどっか行くんじゃね?」
「あの男、初日はあなたを待つためか知りませんが、コーヒー一杯で三時間粘りましたよ」
「ウザっ」
何それ。ただただ迷惑じゃねぇか。
「文句言えねぇの?」
「本人曰く、『金払って席に座ってるんだ。問題ねぇだろ?』と。結局、帰るまでコーヒーには一つも手をつけてませんでしたが」
クソみてぇな野郎だなオイ。
「レィアさん、どうしてくれるんですか…」
「どーすっかね…」
マジで面倒なんだが。
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