大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

追跡と人混み

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本当に粘ってやがった。
具体的に言うと、男は俺が二つ名の方の出し物に行くまでずっと同じ席に座って俺の方を見てた。
じゃあ二つ名の方に行く時に出ていったのかって言うと、それもまた微妙に違う。
「よぉレィアちゃん、どこへ行くんだ?」
こんな感じでついてきやがった。
「………。」
「なぁおい、無視してないで話そうぜ?じゃないとお前の可愛い声が聞けないじゃないか」
こいつ、今すぐ死ねば良いのに。
屋根の上を走るのは却下。万が一、こいつが下手こいて落ちたりしたらシャレにならん。
そんな訳で今、路地裏をこそこそと歩いてる。人混みとか嫌だしな。
『死ねばいいとか言うくせに落ちた場合のこと考えるあたり、お前も変なやつだな』
俺が心配してんのはコイツじゃなくて落ちた先にあるであろう人混みの方だがな。
『その人混みに紛れたらどうだ?』
んー…それ試すしかないか。
「ところでお前、俺の名前本当に知らないのか?無視ばっかりしてないで少しは喋って──」
無視。
ひょいと路地裏から飛び出し、人混みに紛れる。
「あっ、おい!お前!」
幸いというかなんというか、俺は背が小さい。
あくまで…あくまで平均より、だが。
そのため、人混みに飛び込んでしまえば比較的簡単に撒けるはず…。
「マキナ、今何時だ?」
『十時二十分三十二秒・です』
まさか本当に知ってるとは。こいつ便利だな。
──って、そんな場合じゃねぇ!
時間が無い!
………。
……。
…。
『ギリギリだったな』
本当。《雷光》に大目玉食らうところだった。
あの男も撒けたっぽいし…っつーかあいつ、二つ名の出し物の方には来ないのな。
あんだけ大々的にやってるって言うか…一応、出し物としては一番人気だった出し物だったんだし、俺も用意初日で新旧三年やら西学やらと戦っていたんだから、顔ぐらいは知ってたとしてもおかしくは無さそうなんだがな…喫茶店じゃ俺の顔知らないみたいな言い方だったし。
周りを一応チェックして、あの長身の男がいないかどうか探してみるが、いないようだ。
「……よし、これなら屋根使っても大丈夫そうだな」
「…レィアさん、どうしたの?」
「え?あ、いや、何でもないぞ」
「そうか?そう言えばお前、来る時上から来なかったな。昨日は全部屋根から飛び降りていたが」
ウィルと《雷光》が何か勘づいたらしい。
「いやいや、何でもないって。んじゃ、ちょっと急いでるんで」
適当に受け答えし、そのままジャンプ。
『…なぁ、今代の』
ん?なんだシャル。
『あの男、また席取ってそうじゃね?』
…ありそうだな。
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