大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

襲撃と雷弓

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最初に正面から突入してきたのは二人。
剣と槍、オーソドックスなそれを構えた男二人組。
『上だ!!』
既に鎧を身に纏い終えた俺が一言そう言うと、二人は事前に話してあったとおり二階へと向かう。
相手は予想通り西学、攻めてきた二人組は真っ先に俺の首に掛かった鍵を狙う──
店中の装飾、あるいはテーブル、あるいは窓。
とにかく近くにあったものを狙って剣を、槍を振り下ろす。
!!』
まさか、という予想はあった。
もしかしたら、やりかねないと。
それを本当にやって来るとは──!!
『今代の、奥に』
『わかってる!』
さきに突っ込んできた二人の後ろ、見方によっては守られているようにも見えるその位置に、一メートルをゆうに超える様な弓を構えた少女がいた。
弓に番えられた矢が狙う先は──俺の胸元。
これが本命。
否。
これも本命。
『せいっ!』
右手を前に突き出し、俺が頭の中で命令すると、するり、と右手を覆っていた鎧が肩口まで解ける。
細すぎる破片を大量に使用すると、頭への負担がかかりすぎると初日に分かったため、四つに絞った大きめの欠片を作り出す。
形は向日葵の種のような細長く、やや薄い形。
ただし、その大きさは俺の拳よりも大きいのだが。
『いけっ!』
そう叫ぶより早く飛んだ欠片は、一人につき二つずつ取り付き、乱舞する。
『注意を前に戻せ。ありゃ不味い』
うるさすぎる程の警告音が頭の中で鳴り響き、本能がヤバいと叫ぶ。
極度の集中で視界が狭まり、時間がゆっくり流れるような錯覚に陥る。
やけにゆっくりと引き絞られたその弓は、膨大な魔力を少女から貪るようにして吸い上げる。
『ありゃ…魔法…じゃねぇな。だが魔法に限りなく近──』
────来る。
『来るぞ!』
シャルが叫んだ所で、店の外にいた少女がその戦技アーツの名前と共に引き絞った弓の弦を手放した。
「《ヴォルテックス・シュート》!!」
──ッッッッッッッッキュドッッッッッツツ!!
無理矢理音にするならこんな音。
当たれば確実に人を即死させるような極大の一撃。
少女と俺との距離は約五メートル。
矢はその距離を初めから無視したような速度で俺へと迫り、雷のようにして俺の胸に落ちる。
『がばふッッ!!』
『おい今代の!大丈夫か!?意識は!?』
「やったわ!鍵を早く回収──」
…大丈夫だ。
『くっそ、いってぇなぁオイ』
「えっ!?嘘!?直撃したはず──」
『あぁ、お嬢ちゃんは確かにいい腕してるな。死ぬかと思ったよ。つーか殺す気か?』
全く、危なかった。
『アンタらが来るまでに少し時間があったんでな…少し準備をさせてもらった』
もしも銀剣で──いや、銀盾で防いでいなければ。
普通に死んでたかもな。
「くっ…」
『遅い』
既に二人を潰した欠片が少女へと襲いかかる。
何発かは防いだようだが、鳩尾へと一撃、イイのが入ったようだ。
少女はその場に崩れ落ちる。
『…さて、上は…大丈夫かね?』
『さぁ?大丈夫なんじゃないか?』
…不安だな、おい。
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