大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,928 / 2,022
本編

騒ぎと別れ

しおりを挟む
それからはかなり忙しかった。
きっかけはクアイの退学。
周りの生徒からするとあまりに突然。しかもクアイ自身がその事に何も抵抗しない。話によると、彼女は退学を言い渡された時、ただ粛々と指示に従ったらしい。
一方で激しく抗議したのは一年の女子生徒達と一部の二年女子。学校側に理由を聞いても絶対に教えられず、クアイも押し黙って何も答えない。
それもそのはず。クアイの記憶は一部欠落しているのだ。
アーネの頼みである「クアイに洗脳の事を隠しておいて欲しい」という頼み事について、学校長が最大限配慮した結果……らしい。
「あの場で彼女がどういう事をしたのか、堂々会話していましたからね。彼女の認識は『訓練所で倒れ、それを《緋翼》が助けた記憶が朧気にある』という風に纏めておきました。万が一聞かれても、夢だったと言えば大丈夫でしょう」
との事。ちなみに記憶を弄る云々についてだが──
『サラリと言うが、記憶を弄る魔法は超級魔法の中でも相当難しい部類だ。魔族ならもっと楽なんだろうが……まぁ、コイツも充分化物クラスだな』
と、シャルが軽く説明してくれた。
ともかく、それとなく周りの会話を聞いていても、クアイにかけた魔法は上手く作用しているらしい。クアイに聞いてもよく分からなかったという内容の会話がよく聞こえる。
当然、このことについて学校への不信感が高まる。先の魔族の襲撃や《勇者》の怪我、そして今回の件。
不満は広がり、クアイが退学する日についに爆発した。
一部の生徒達が学校長の部屋に押し寄せ、クアイの退学について抗議。さらにここ最近の諸々を合わせ、この学校長はあまりに不当なのではないかとなったのだ。
まぁ、先にオチを言ってしまうと、生徒の要望はほぼ全て叩き落とされたのだが。
あとから聞いた話だと、クアイが退学したことについては彼女自身が望んだことであると説明され、クアイ本人の文字で自分の意思で退学するという旨、さらにその理由、周りの人に迷惑をかけてしまって申し訳ないという謝罪まで入った封筒が公開されたらしい。
それが公開されたのが、丁度クアイが聖学を出たタイミングだったそうだ。
「じゃあな。もう会うことは無いかもしれないけど」
学校が出した馬車に荷物を詰め込む手伝いをし終え、クアイに最後の挨拶をする。
「はい。一年の時はありがとうございました」
「何、大したことはしてねぇさ。それに、今回は結局退学になっちまって……悪いな」
そう言うと、クアイは少しだけ申し訳なさそうに笑う。
「実を言うと、元から辞めようと思ってたんです。と言うよりも、私が《英雄》を目指す事自体がおかしな話だったんですけれど。何でこの学校来ちゃったのかなぁ」
「……さぁ、どうしてだろうな」
「でも、来て悪い所じゃ無かったです。ありがとうございました」
そう言うと、馬車が走り出し、すぐに彼女の姿は見えない程小さくなった。
『また一人、か』
「……だなぁ」
一番最初に結成した班で残っているのはアーネ。それと、途中参加のリーザ。
願わくば、これ以上誰も欠けることは無いように。
そう誰ともなく祈った。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...