大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔獣と恐怖

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ただ力になりたかった。
この身は一振の刀剣。幼い頃からそうあれと教えられ、心も身体も鍛えてきた。
硬く、鋭く、速い。
何千回鎚に打たれた鋼よりも。鏡面の如く研がれた刃よりも。音より速い雷よりも。
その事に何の疑問も抱かなかったし、嫌だと思ったことも無かった。
だから聖学へ来た。《聖女》様に仕えるために。最速最強の剣として。
しかし、私はどうやら最強ではなく、刀剣にもなれなかったらしい。
挙句、家の命すらも最早どうでもいいと。
そう思って一人の男に仕えると、そう決めた。
ただ力になりたい。彼の為に。
それで、良かったはずなのに。

── ── ── ── ──

「なぁ《緋眼騎士》。最近のって話──」
「あ?出る?出るって何が?」
ある日の夕飯時。アーネと食事をしに食堂へ行くと、三年の先輩からそんな話をされた。
「そりゃ……幽霊だよ、ユーレイ」
またその話か。俺は溜息をつき、その先輩をじろりと見た。
「な、何だよ」
「いや別に。何でもないさ。何でもないとも。強いて言うなら、この三日間だけでもその話を五、六回聞いたってだけだ」
「そ、そうか。ならいいんだ。うん。じゃあな」
と言って、先輩はそそくさとその場を去る。
「全く。全員俺を何でも屋か何かと勘違いしてんのか?」
『似たようなモンだろ。個人の頼みもちょくちょく聞いてたし』
「そこはまぁ。間違いじゃねぇんだが……」
「あの先輩や、他の生徒達の気持ちもわかりますわよ。いくら無害と言っても、聖学に魔獣が徘徊していると言われて気分のいいものでは無いですものね」
「だったら自力でやりゃいいんだ。先輩もアイツらも……全く」
そう。今聖学には、とある魔獣が徘徊している。
その名も《恐怖の幻影テラーゴースト》。通称幽霊と呼ばれる魔獣だ。
見た目は千差万別だが、多くは白っぽい光が髪の長い女の姿をしている……とでも言えばいいのだろうか。
で、この魔獣。何をするのかと言えば、基本的には何もしない。ただ夜中にフラフラと徘徊し、曲がり角などで誰かと鉢合わせて驚かせる。それだけの魔獣で、一、二週間、どれだけ長くとも、ひと月もすれば飽きて勝手に消える。
俺もナナキにはよく「コイツには手を出す必要が無い。放置しろ」と言われた。
と言うのも、こちらが危害を加えようとした場合にのみ、この魔獣は強く抵抗する。
顔の口に当たる部分が突如と開き、襲ってきた相手を呑み込む。
呑み込まれた相手は怪我など一切ないが、代わりに夜明けまでずっとテラーゴーストの腹の中に居る事になる。
実は俺も昔、一回うっかり攻撃してしまい、テラーゴーストに飲み込まれたことがある。
目を開いていても何も見えない程の暗闇の中に放り込まれ、ひたすらケタケタくすくすという笑い声だけが無限に聞こえてくる。
どこまで走っても暗闇に端はなく、声は絶対に離れず、延々と追いついてくる。耳を塞いでも頭に響くその声と、時折何故か俺の身体の表面をさわさわと滑るように何かが触れる感触が少しずつ俺の精神を摩耗させる。《恐怖の幻影テラーゴースト》という、その名にふさわしい魔獣だった記憶がある。
余談だが、ナナキの話によると、六時間ほどテラーゴーストの中にいた俺は、その日からしばらく一人では寝られず、彼女の傍にずっといたらしい。もう十年近く前の話になるが。
確かに恐ろしい魔獣ではあるが、こちらから何もしなければ大した実害もないのだから、放っておけ。テラーゴーストが居るという報告を聞いた学校が出した対処はそれだけ。
それを不安に思ったのだろう。何人かが二つ名持ちに「テラーゴーストを倒してくれ」というお願いをしに行ったらしい。
とは言っても、アイツ相手に出来ることはそんなに無い。俺も一番最初に相談しに来た生徒にそう言ったのだ。
が、その日のうちに何人かの生徒が被害に遭い、歯の根が合わない程震えて縮こまっていたのが発見された。
これのせいで、他の生徒もどうにかしてくれと騒ぐようになり、俺もうんざりとしているのだ。
テラーゴーストの最初の発見が確か一週間ほど前だったか。クアイが帰って三日ぐらいしてからだったはず。タイミング的に疑う者も少しいたが、そういう者は極一部。
何にせよ、あと一週間もないのだから我慢しろ。と言うのが俺の答えだ。
だと言うのに、被害者は定期的に出ているのだから笑うより他ない。
「どいつもこいつも馬鹿じゃねぇの?もう結構経ってるんだから慣れてもいいだろうよ」
「だったら、良かったんだがな。座るぞ」
「もう座ってんだろ。気にしねぇけど」
と言って俺の向かい、アーネの隣に座るのはユーリア。
「お前は何回言われたよ?」
「十回から数えるのを止めた。皆、余程参ってるらしいな」
「手を出すなってのがそんなに難しいかね……向こうは何もしてこないのに」
「いくら頭で理解してても、あんなのが急に角から出てくるんだぞ。思わず手を出すのも分かるさ」
この口ぶりだと、どうやらユーリアはテラーゴーストに遭遇したらしい。
「そんなに怖いんですの?」
「何だ、アーネはまだ遭ってないのか。想像の三倍は怖いと思っていいぞ。それに、何だか本能的に危機を感じて手を出したくなる。私の時は何かがいると目を覚ますと、至近距離に奴の顔があった」
と、ユーリアが語り、身震いをする。
「まぁ、そんな訳で私も君も相当話を持ち掛けられているだろうが、今一番大変なのは《雷光》らしいぞ」
「《雷光》が?何で?」
相当話しかけにくい部類だと思うが。いやでも、普通の生徒には優しいのだろうか。
「彼女は学校側の二つ名持ちだからな。どうにかしてくれ、あるいはどうにかして学校長に対策を取ってくれ、というお願いがひっきりなしに入ってるらしい」
「はー、大変だなぁ」
「一部無茶苦茶な事を言う奴もいてな。《勇者》にやらせろと言ってくる奴も居るらしい。と言うか見た」
「……どうやって?」
「さぁ?相手がこちらに危害を加える方法がないからどうのこうのという話は聞こえたな」
確かにテラーゴーストは物理的にこちらを害することは出来ない。極端な話、赤子に傷一つ付けることすら不可能な魔獣。
だが、だからと言ってほぼ寝たきり状態のウィルに何か出来るのかと問われると疑問が生じる。というかぶっちゃけ──
「ところであなた、その件のテラーゴーストって倒せるんですの?」
アーネがそう聞く。
「無理。少なくとも俺にはどうしようも出来ないね」
肩を竦めてそう言い放つ。
「随分とあっさりと断言するんですわね。いつもなら例外があったりするものですけれど」
「テラーゴーストを倒す事自体は出来なくはないさ。ただ、俺には絶対に無理ってだけで」
全く忌々しい。いや、あるいは恥ずかしいと言えばいいのか。
「そもそも根本的な話、あいつには物理攻撃が効かねぇの。だから俺がいくら頑張ってもアイツに呑み込まれるだけなんだよ」
それともうひとつ、致命的な理由がある。が、ここでは伏せておこう。そこまで言う必要は無い。
「じゃあ私やユーリアなら……?」
「可能性はあるかもな。もっとも、中途半端な威力だとテラーゴーストの反撃に遭う。一撃で吹き飛ばそうにも……出た場所が場所だからな」
そう言うと二人は納得する。真夜中、皆が寝静まっている頃に狭い寮の通路で大火力の魔法をぶっ放せばどうなるか。テラーゴーストなんかよりずっと大きな被害が出るのは明白だ。
「訓練所に出れば私が消し飛ばしてやるのに」
「元々奴は物陰が多い所を好んで出没するからな。開けた場所には出ないぞ」
ここが厄介なのだ。倒す為には魔法が必要だが、充分な魔法を放つ為にはテラーゴーストの出る場所は障害物が多すぎる。ましてや今回は周りにヒトがいる。
「だから学校長は何もしないんですわね……」
「少しぐらい説明すりゃいいのに……いや、でもこれぐらいの事、生徒は知ってて当然とか思ってんのかね」
……有り得そうな話だ。
「まぁともかく、そう言う訳で俺にゃどうしようもねぇんだわ。もうあと一週間ちょいだし、我慢しとこうぜ」
と言って、適当に話を切り上げる。
いい加減周りもほっときゃいいって分かるようになるだろ。

── ── ── ── ──

その翌日、アーネと朝食に向かおうとした部屋を出た瞬間、「おいどうなってるんだ!?」と怒鳴られた。
「……朝の挨拶にしちゃ随分な言葉だな、先輩。可愛い後輩の一日の出だしを最悪にしてまで一体何用だ?」
そこに居たのは、昨日食堂で俺に話を持ちかけた先輩。だが、昨日とは違って相当ご立腹の様子。
「幽霊の事だ!何が危害はないだ!負傷者が出じゃないか!」
「……いつ?どこで?誰が?程度はどのぐらいの負傷なんだ?そいつは今どこに?」
「俺の班のメンツの一人だ。今は保健室で──」
そこまで聞いて、俺は舌打ちしてすぐに保健室へ走り向かう。
「先生、幽霊の被害者が出たって聞いたが?誰だ」
「あら、情報が早いわね。どうしたの?」
「そんな馬鹿げた話があるかって文句言いに来たんだよ。どこだ?」
と言うと、先生は角の方のカーテンを指差す。
「こいつか」
ガシャッ、とカーテンを横に引き、ベッドで寝ているそいつを睨む。
ベッドの上にはかなり筋肉質な男が一人、静かに寝息をたてながら寝ている。
見た感じはもう大した怪我は無さそうだ。先生が治療した後なのだろう。
「名前…は、いいや。ゴリゴリの近接系か。負傷ってんならどんな怪我だったんだ?」
「今朝ここに運ばれた時は、全身酷い打撲だったわ。特に手足ね。まるで幽霊に握り潰されたみたいに手の跡がくっきりと何ヶ所にもついてたわ」
「胴体とか顔の方は?」
「手足程じゃなかったわね。けど、最初は相当酷い見た目だったわよ」
「ふーん。そうか。ちなみに何時頃に運び込まれたんだ?」
「四時ぐらいじゃなかったかしら。叩き起されたから分からかなったけど」
「なるほどな」
そう一言呟いて、溜息をついてカーテンを閉める。
「何かわかったのかしら?」
「まぁな。全く……先生、悪いけどコイツが起きたらどういう状況でこうなったか聞いてくれ。また後で来るから」
「ちょっと、急に走り出してどうしたんですの!?」
後から必死になって追ってきたらしいアーネが、息を切らせてようやく保健室に到着する。
「大したことじゃねぇよ。ほら、飯食って訓練所行くぞ。今日は午前だろ」
「それはいいんですけれども……幽霊の件はいいんですの?幽霊のせいで精神的な意味ではなく被害が出たんでしょう?」
「そいつは大丈夫だ。とりあえず飯食う時間がなくなる前に食堂行くぞ、ほら」
と言って保健室から出る。
食堂へ向かう最中、恐ろしく早い何かとすれ違った気がするが、恐らく気の所為だろう。

── ── ── ── ──

一体どこから広まったのやら。なんて事は考える必要も無いほど分かりやすく、学校全体に例の話が広まった。
曰く、例の生徒は何もしていないのにテラーゴーストに襲われ、大怪我を負い、保健室に運ばれたと。
もしも隣の部屋に居た班のメンバーが、彼の呻き声に気づかなかったら、どうなっていたか分からないと。
「アホくせぇ。無視しろ無視」
「し、しかしだな、レィア。実害が出てる以上、流石に対処しない訳にも……」
「学校の対応みたろ。あれが正しいんだよ」
その日の夜。明らかに困っているという顔をしたユーリアが俺達の部屋を訪ねてきた。話は当然、幽霊についてだ。
散々手を出さなければ大丈夫だと言われていた魔獣が、何もしなくとも襲い、生徒のひとりに重傷を負わせたとなると、流石の生徒達も無視できなくなったようだ。今日も俺の所に何人もの生徒がやって来た。
まぁ、全部鼻で笑って追い返したが。
俺ですらそうなのだ。学校側に文句を言いに行った生徒は当然もっと多かったのだろう。学校側が再度声明を上げることになった。
「テラーゴーストには一切触れるな」
結局のところ、学校は「何もするな、放置しておけ」と。
そのせいで、夕方からさらに俺のところに来る奴らが増えた。学校が何もしてくれないならこっち側でやるしかない。だったら頼れる二つ名に、という流れだろう。中には一日に二度三度と来る奴も居た。
「本当にいいんですの?」
「いいんだよコレで」
ユーリアとしばらく話し、帰したところでアーネが不安そうに聞く。
「目先の情報とよく知らねぇ恐怖から、ただ他人に頼って解決だけ求める馬鹿にゃ説明する気も起きん。それだって俺達は最初から『手を出すな、ほっとけ』つってんだ」
と言って溜息を着く。
「全く、こりゃ学校長も意地になってあんだけしか言わねぇのも分かる気がするわ」
「マスター、やはり丁寧に説明する方が良いのでは?今後も同様に他の生徒が来ると予想されますが」
「かもな。だが、俺を頼るような奴の顔ぶれはほぼ変わんねぇ。分かってる奴はちゃんと分かってるのさ。それでも踊ってる馬鹿が極一部いるんだが」
何かで聞いた、こういう時の言葉。確か、馬鹿につける薬はない、とか言うんだったか。薬ではないが、どうしようもないと言う点では変わらない。
「んじゃ俺、ちょっと訓練所行ってくる。馬鹿が来たら任せるぞ、マキナ」
「承知しました」
「アーネは?」
「私はここで待ってますわ。何かあったらすぐに呼んでくださいまし」
まぁ、アーネが本気で自分の修練に取り組もうとしたら訓練所は狭すぎる。そこらの荒野でやる方がいいし、周りに誰もいないことが望ましいか。
「任せたぞ、マキナ」
と言って義眼分だけ残し、残りで俺とそっくり同じ姿のマキナを作り──
「おい、胸」
「失礼しました。私のベースは女型なので」
と言って、胸部の膨らみが急速に萎む。
「……これ以上俺が男か女かって話に変な火種を入れたく無いんだから気をつけろよ?」
何故こんなに何度も言っているのに未だに信じられていないのだろうか。不思議でならない。
ともかく、俺は訓練所に向かった。
昨今の騒ぎの中でも、出来るだけ《始眼》の練習は欠かさないようにしている。理由は単純。一日抜けただけで、感覚が一気にあやふやになるのだ。
もちろん、他の技も磨きをかける。
血界の修練は血を使う関係で数日に一回だが、戦技アーツは何度も何度も、身体に馴染むように繰り返し行う。
剣が新しくなった時に、十年以上かけて積み上げてきた戦技アーツのほぼ全てを捨て、新しく再構築した結果、今の剣に合う戦技アーツになりはしたものの、戦技アーツ自体の威力は落ちた。差し引き少しマイナスと言ったところか。
だからこそ、その『少しマイナス』を無くし、少しでも《魔王》との戦いに万全の状態で挑みたいのだ。
『調子は?』
「ぼちぼち。ま、悪かねぇが……間に合うかどうか」
戦技アーツを強くするには、より深い理解、言い換えてしまえば慣れが必要になる。
この世界により強く、より深く、より鮮明に。そうして刻み込まれた物ほど戦技アーツは力を増す。
自身の記憶に残し、自身の身体に刻み、そして世界に記録として遺す。
そのためには、何千何万を超える反復練習が必要となる。当然、一朝一夕で出来るものではなく、何年もの年月をかけて磨くべきもの。それを数ヶ月で仕上げようと言うのだ。無理と無茶ばかりがあり、時間は欠片もありはしない。
『ん、誰か来たな』
「だな」
だと言うのに来客らしい。
溜息をつき、握っていた銀剣から両手を離し、待機状態に戻す。
ちょうどそのタイミングで訓練所の扉が開かれ、来客が顔を見せる。
闇夜に溶けるような黒い髪、細く長い手足はしなやかさの中に強さを感じさせる。
カツン、コツン、と足音を響かせ、ゆっくりとそいつが寄ってくる。
「どうした《雷光》?何用だ?」
腰に手を当てそう聞くが、彼女は何も答えず、厳しい顔のまま足音だけを響かせ、静かに寄ってくる。
俺の間合いの外、しかし雷になれる《雷光》の間合いの内側という絶妙なところで彼女はようやく足を止め、じっと俺を見つめる。
「《緋眼騎士》。貴様に頼みたいことがある」
「何だ、改まって。話だけなら聞いてやる」
珍しいな。こいつがこんな風に言うなんて。そう思っていると、《雷光》は勢いよく頭を下げ、俺にこう言ったのだ。
「最近学校を騒がせている例の魔獣。奴の討伐に手を貸してもらいたい」
「……は?」
俺の口から、そんな間抜けな声が出た。
「例の魔獣ってのはテラーゴーストの事か?」
「あぁ。そうだ。聞けばお前は魔獣について詳しいと二年の生徒達から聞いた。二つ名持ち故に腕も立つ。私と一緒に、どうにかして今のこの惨状を終わらせるのを手伝って欲しい」
頭を下げたまま、《雷光》がそう言う。
「じゃあ簡単だ。黙って何もするな。他の生徒もお前も。それだけでいい」
「……今朝の生徒の話は聞いたか?」
「勿論。見に行きもしたさ。その上で言うぞ。『ほっとけ。何もするな』だ」
「それでも私はどうにかしなくてはならないのだ。頼む」
あの《雷光》がこうまでするというのが正直信じられない。余程追い詰められているのだろう。
「理由は?もうじきに消えるだろう幽霊を、今更必死になってどうにかしようとするその理由」
「………。」
「言えよ。簡単だろ」
「……一般生徒からの声があまりに大きくなってきたからだ」
「ふぅん、そうか。まぁ、対処法は結局変わらねぇんだけどな。結局アイツはどうしようもないモンだし」
そう言ってこの場から去ろうとすると、《雷光》の手が俺の手をガシリと掴み、俺を見上げる。
「いや、私は聞いたぞ。非常に困難ではあるが、テラーゴーストを倒す手段はあると。あの魔獣は珍しい存在故、どんな書物にも載っていなかったが、貴様はそれを知っているのだろう?」
「……ユーリアか」
《雷光》は答えないが、当たりだろう。
「簡単だ。相手は実体のない魔力の塊みたいな存在だ。魔法で吹っ飛ばせばいい。もっとも、奴は狭い所を好む。そんな所で魔法なんか撃てば相当な被害が出るだろうな」
「それは知っている。私が奴を倒せるような、もっと他の方法だ」
「あ?ねぇよそんなモン。相手は実体が無いんだぞ。だから俺やお前みたいな近接専門の奴はどうしようもねぇの。大魔法撃って寮ごと吹き飛ばすか、もうしばらく静かに待つか。二つに一つだぜ」
そう言って彼女の手を振り解き、訓練所を出ようとする。
そのタイミングで、後ろから声がした。
「では問うぞ、《緋眼騎士》。もしも実体がない相手でさえ斬ることが出来たら、テラーゴーストは倒せるか?」
その言葉に、俺は一瞬だけ考えた。
「万に一つ、いや、億に一つだがな」
そう言って俺はその場から去った。

── ── ── ── ──

──私が貴方の剣となります。
──要らないよ。君は君のしたいようにすればいい。
そう言われた。だから私は彼の剣として、ずっと傍に居る事にした。
──そう言うつもりじゃ無かったんだけどな。
苦笑して彼はそう言ったが、私はそれでも辞めるつもりはなかった。
──私のしたいようにしろ、と言われたので、貴方に仕えさせて頂きます。
そうとも。私は一振りの剣。
如何に鋭く研がれたとしても、どれだけ美しい見目をしても、使い手が居なければそこらの鈍と変わらない。
──貴方の露払いで結構です。どうか、私を貴方のお傍に。
そう言うと、彼は困ったように眉を寄せつつ、こう言ったのだ。
──じゃあ、二年。二年間だけ、僕は君を剣として使わせてもらおう。
まだ私が二つ名を持っていない、ただの剣だった時の話だ。
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