大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,892 / 2,022
本編

報告と切断

しおりを挟む
蹴りを放った瞬間、俺に少々予想外のことが起こった。
マキナが俺の意図を汲んで、蹴りの威力を上昇させたのだ。
結果、何度も何度も叩き込んだことのある蹴りは、マキナのアシストによって威力を大きく増し、容易く扉をぶち抜いて、壮絶な音を立てて部屋の隅に吹き飛ばされる。
「……失礼、まさかここまで威力があるとは思って無かった」
扉を壊すぐらいは許容範囲内だったが、まさか吹き飛ばしてしまうとは思っていなかった。
流石に、中のヒトに危害を加えるつもりは無かったので、そこは普通に謝る。
「最初からノックして入ると言うことが出来れば、それだけで解決する事だと思うのですがね」
「悪いな。アンタの事が嫌いだから、ノックよりキックの方が気持ちいいんだ」
適当にそう返し、室内にいたもう一人の方を向く。
赤い瞳に赤い髪。長身の少女が驚いた顔をしてこちらをまじまじと見つめていた。
「よう。ただいま、アーネ」
「おかえりなさい、ですわ」
そう言ってから、俺の目に気づいたらしい。アーネが物言いたげに俺の顔を覗き込む。
「話は……一緒に話す。いいか?」
「私は構いません。《緋翼》もそれでいいですか?」
「いいですわ。けどその前に、扉をどうにかしないと……」
一応、俺の一週間は謹慎という扱いだったので、形だけで保つためにこの話は出来るだけ外に漏れないようにしたいか。
明らかに自分の過失であるので、右眼を軽く擦ってマキナを掬い、扉を引きずって戸に立てかける。
「よっ」
上手いこと嵌め込んだら、引きちぎれた蝶番の所にマキナを付け、ついでに軽くロックさせる。
「とりあえずこんなもんか。応急処置だけど」
「それで充分です」
ひょいひょい、と学校長が指を空中に踊らせると、部屋一帯に一瞬だけ薄紫の紋様が走る。
『防音だな』
シャルが短く呟く。
「では報告を。先程の続きからお願いします。《緋翼》」
「あ、はい。と言っても、もうほとんど言うことは無いですわね。ただ、どうしても最後の最後で逃げられている感じはしますわね」
「見落としがあるのでは?致命的で根本的な」
「その可能性は充分有り得ますわ。だから追加で去年の倉庫の鍵の貸し出し記録が欲しいんですけれど」
「構いません。後で司書の方に言っておきましょう」
「お願いしますわ。では、私の方からは以上ですわね」
何の話だろうか。全く分からないが、後でアーネに聞けと言う事だろう。
「じゃ、次は俺の話か。つっても大したことじゃねぇけど……」
「……《魔王》と真っ向から対峙し、生きて帰ってきた。その事実だけで驚異なのです。《魔王》がいつ攻めてくるか分からない以上、下手な軍勢などより、あなたという一個人が戦力として重要なのです。その眼の事も含めて、王都で何をし、何を得てきたのか。全て話して貰います」
「俺の切り札なんだがな。あの技は。その事も話さなきゃならんのか」
「あなたという切り札を切る時と場面を知る。そのために必要なことです」
なるほどね。まぁ一理ある。
俺は戦士であって将軍ではない。俺自身をヒトではなく駒として扱うなら、それが正解だ。
そういう扱いをするから嫌いなんだけどな。
「向こうで俺が得たのは簡単に言って二つ。一つはこの義眼。視力とか諸々自体は前より向上してると思ってもらっていい。それともう一個」
そう言って、始眼を発動させながら学校長の前に行く。
そしてそのまま、手刀をすいと縦に振り下ろすと、学校長の前にあった大きく頑丈そうな執務机がばっくりと切断される。
「《始眼》。ま、平たく言うと何でも切れるようになったとでも思ってくれ。それこそ魔法でもな」
先程の防音の魔法は──これか。
人差し指を、始眼にしか見えない糸に引っ掛けるようにしてクイと引くと、糸があっさりと切れる。
「!」
「ま、そんな感じだ。後は……特にねぇな」
マキナの事は言う必要を感じない。《勇者》については話す気がない。およそそんな感じ。
「なるほど。これはまた……耳長種エルフとは違う理で斬ってますね?」
「じゃねぇかな。俺耳長種エルフじゃねぇから知らねぇけど」
そう言って、俺は肩をすくめた。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...