大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

英雄と疲労

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やはり、あの二人でも英雄には結局勝てなかった。
最後は英雄の戦技アーツ…多分戦技アーツで方がついた。
多分というのは、早すぎて視認が出来なかったため、正直何が起きたか分からなかったからだ。
それでも戦技アーツだと分かったのは、シャルが戦技アーツ特有の発光現象が見えたと言ったから。
もっとも、シャルでもそれが限界で、何が起きたのかはさっぱりわからなかったらしいが。
「諸君の力量はよくわかった!!これからも精進し、新しく英雄という座に座る者達が──」
尋常ではない斬り合いをしておいて、息一つ乱れることはなく、今も平気な風に何か演説をしている。
「…………いくか」
緋眼を解除し、ふらりと人混みの中に紛れてその場を去る。
『いいのか?まだ英雄が喋っているぞ』
…俺が頼まれたのは三年生とのガチンコと、ついでにゲストの相手だ。演説だのご高説だのを聞く理由は無いね。
『…そうか』
そんな事より、早く宿に戻って…あぁいや、まだ昼過ぎか…勝手に戻っちゃダメか。
「………。」
一度だけ振り返り、その英雄の姿を記憶に刻みつける。
平均よりやや高めの背丈を歳のせいかやや前に曲げ、肩甲骨の辺りまで伸ばした白髪を首のあたりで束ねている。
顔にはシワが多く、時たま笑う顔も恐ろしさや凄みなどはなく、むしろ人に親しみやすそうな風貌。
わかりやすく一言で言うなら、どこにでもいるような好々爺と言った感じ。
「──特に今年の聖学祭は一般人の目を楽しませるには充分な催しが──」
英雄はまだ何か話しているらしい。まぁ、俺はすぐにこの場を離れるから関係ないが。
「ッチ」
『どうした?』
いや…昔、友人が言っていたことを思い出しただけだ。
年寄りの話は長くてダルいって事。
『…あぁ、そりゃ同意だ…ところで、戦闘中にノイズが走ったらしいな?』
あ?あぁ…まぁ。聞こえなかったか?
ふらりふらりと、うろ覚えで来た道を戻る。腹も減った、疲労も溜まった。アドレナリンだか何だか忘れたが、頭の中身をハイにしてくれるアレやソレの分泌が止まった今、俺の身体は強烈な倦怠感と疲労感に包まれている。とにかく休みたい。そんで飯食いたい。ついでに風呂入って、ぶっちゃけもう寝たい。
けど、それよりも。
たった一つの事が俺のの中を延々と回っていた。
戦いにすら──ならなかった。
戦いだの勝ち負けだの勝負だの、その外側の問題。
俺は、その舞台に上がることすら出来なかった。
だから──なのかは分からないが、シャルとの受け答えも、それから先はうろ覚えだ。
とにかく、頭の中にずっとその事がグルグルと回っていた。
敗北よりも惨めで、惨敗よりも虚しい。
戦うということ以前の問題──
あぁ──。
って…弱いなぁ…」
『…今代の?』
腹の底からドロリと零れたその言葉は、そのまま自分の胸に染み込んでいった。
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