大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

二つ名と英雄

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《逆鱗》に投げられ、さらに《不動荒野》にも投げられた後、俺は尻餅をついたような形で座り込んでいた。
「《緋眼騎士》さん…ですよね?胸の校章が破損したので失格です。すぐに下がってください」
「あ?…あぁ」
「立てますか?」
「…悪い、手を貸してくれ」
手を持ち上げ、俺へ声をかけてきた人へと緩く伸ばすと、その人はその手をしっかり握り、予想外に力強く俺を引き上げた。
「っ、とと。身体に異常はありませんか?また、動悸や頭痛は?」
「どれも大丈夫だ。強いて言うなら……あぁ、疲れただけだ。それだけ、だ」
聞かれたことにそう答え、視線を未だ戦っている先輩達の方へと向ける。
「………。」
三人前衛三人後衛VS一人英雄
圧倒的に有利であるはずの二つ名持ち達は、たった一人の英雄に圧倒されていた。
いい加減疲れていたが、緋眼を使って死力を強化。
この距離からでも、その場にいるかのようにして、鮮明に英雄が見えた。
英雄の得物は……そこいらの店で買えるような、果物ナイフ。
対する《逆鱗》、《勇者》、《雷光》はそれぞれ《逆鱗》が頑丈そうな両手持ちの剣一本、《勇者》は右に長剣、左に盾、《雷光》は…前と同じような刀なのだが、前とは違う。
本人の周りに、同じような刀が三本…四本ほど浮遊している。それが独立して英雄を襲っている。
さらに、《不動荒野》達も援護として魔法、《臨界点》も幾らか魔法を放っているらしい。
つまり、英雄は現在、実質六人もの手練と戦っているのに等しい。
武器は玩具と変わらないような代物、相手は超一級品の武器に身を包み、さらに敵の後方からは魔法による援護。
圧倒的戦力差。普通なら、絶望の二文字しか浮かばない。
なのに──。
「それをひっくり返す…か」
ヒトの身で至ることが出来る限界にまで上り詰めた、極限の技術。
筋肉一筋ひとすじすら完璧に把握し、何をどれだけ動かせばどうなるのか、ミリ以下の単位で理解していて初めてその入口に立つことの出来る領域。
それが英雄…。
「…《緋眼騎士》さん?どうしましたか?もしかして疲労で動けないとか…目が!どうしましたか!?」
「あぁ、気にしないでくれ。問題ない」
さらにあの老人、魔法まで使っているようだ。
後衛の《不動荒野》のどちらかが後ろへ大きく吹き飛んだ。
そしてそのまま場外へ──たしか、それでも失格だったな。
何がどうなっているのか、もはや俺の知覚範囲外に突入しかけた所で、《雷光》が吹き飛ばされ、《臨界点》を巻き込んで場外へ。
直後、仮面か校章が割れたのか、残る《不動荒野》もそっと広場を出ていく。
残るは──《逆鱗》と《勇者》か。
しかし、それも長くは持たない。
英雄から溢れ出る余裕が、俺にそう確信させた。
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