大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

ゲストと衝撃

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ルト先輩にそう返したところで──魔法か何かで拡大された誰かの声が広場に響き渡った。
『未来の英雄諸君!!素晴らしき闘争!血湧き肉躍る戦いだった!我が母校である聖学も、新たに出来た西学も──』
「あれがゲストだ」
「っせーな。何だよクソ」
疲労で一杯の頭に、やたらめったら響く声。
イライラしながらそちらを見ると────。
『……?今代の、どうした?』
かなりの距離だったが、辛うじて見えたその姿。
この距離でも分かる、強大な力。
四人目の──。
「英…雄…?」
「あぁ、最古の英雄にして、最強の英雄だ」
「誰が呼び始めたのかは分からないけど、通り名は《神剣》。フルネームはヴァルクス・レムナント…六十を超えているけど、未だにその腕は衰えていないよ」
ヴァルクスはその間もずっと喋り続け、最後にこう言った。
『──故に!儂が指針となろう!』
「…来るぞ。構えろ」
「レィアさん、離れて」
「あ?」
直後、俺達のわずか十センチ前の地面がした。
「なぁっ!?」
ルト先輩が魔法を斬った時よりも、《不動荒野》が雷龍を撃った時よりも、雷龍と炎鳥が取っ組み合い、爆散した時よりも強烈な衝撃と音。
本能で咄嗟に目を閉じ、手で顔を覆うが、吹き荒れる風とそれに混じる砂利が鋭利な刃となって身体のいたる所を切り裂く。
それが収まったところで目を開くが…土埃が未だ強く、何も見えない。
が、しかし突然風が吹き抜け、一気に視界が明るくなる。
「さぁ若き少年少女よ!今一度、その目に!身体に!心に!英雄であるという事を刻みつけろ!!《神剣》ヴァルクス・レムナントがお相手しよう!!」
──最高だ。
『お、おい今代の──』
──最高じゃないか!!
英雄と──戦える!
ここで英雄を倒せれば。
ここで英雄を潰せれば。
ここで英雄を殺せれば。
英雄の座が──一つ空く。
『おい!お前の身体を見ろ!外も中もボロボロじゃねぇか!!引け!』
うるさい。
俺は迷わず金剣と銀剣を胸元から取り出し、無言で《血呪》すら発動し──。
「ぇっ?」
視界が流れた。
ルト先輩に襟首を掴まれ、後ろに投げられたのだと気づいた頃には既に英雄は視線のずっと先。
──何故?
「レィアくん」「キミ、失格だねー」
地面に着地したところで《不動荒野》が俺にそう告げる。
「…は?ざけんな!!まだ始まってすら──」
二人は揃って俺の胸元を指さす。
そこには、小さな小さな石礫が突き破り、割れた校章があった。
校章が割れたら──どうだったっけ?
「すぐ下がって。」「《英雄》が来るよ」
そしてさらに《不動荒野》に、後ろへと投げ飛ばされた。
宙を舞いながら、ゆっくりと頭が回る。
あぁそうか、たしか──。
「失……格……?」
ふと、極わずかに残った冷静な頭がそんな事を思い出し、全身から力が抜けきった。
しかし──俺がいなくとも、戦いは進む。
戦いは始まったばかりなのだから。
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