大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

波動界と剣

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「!!」
《波壊王》の狙いは再び胴。触れれば身体を文字通りの意味で「崩す」魔術。
原理は不明。そもそも魔術は現象ではなく結果を持ってくる物。そこにどうやってという疑問は意味が無い。
奴の身体が触れ、そして対象が崩れる。それだけがはっきりしていれば何も問題は無いのだ。
後ろに回避、しかし《波壊王》はそれをさらに踏み込んで掌底を撃つ。
さらに下がるが、当然のように《波壊王》もさらに踏み込み、今度は肘を放つ。
これでは不味いと流石に判断し、踏み込んで脇を抜ける。
奴に触れない脇なら何とか通れる。そう判断し、その瞬間、ぞりっ。と。
頬が削げ落ちた。
「ぐっ、あ!?」
右頬から耳の端まで、一直線に荒い鑢で擦り降ろされたような、肌触りの悪い激痛。
触れるまでもなく血がだくだくと流れ落ち、顔を僅かに動かすだけで痛みが暴れ回る。だが傷は浅いようで、頬に穴は空いていないらしい。その辺は幸運だった。
クソ、思ったより《波動界》の範囲が広いのか。見えないからわかんねぇ…!
しかも敵の追撃は止まらない。
「──!」
顔を上げた瞬間、《波壊王》が肉薄しており、今まさに俺の顔へ手刀を繰り出そうとしていた。
相手からすれば俺が避けて勝手に痛みに転げ回っているだけ。《波壊王》自体は何もしていない。ならば追撃を仕掛けるのは当然。
「クッソ!!」
痛みを無視して声を上げ、再び後ろへ回避。
前に出る?横に避ける?少しでも奴の身体が近づけば、俺の身体が削り取られる可能性があるのに?
正直痛みで言うなら今までの中でも指折り。
腕が無くなったり、身体が半分斬られたりもしたことがあるが、そういう時は大体痛いよりも熱いや冷たいと言った別の感覚が湧き上がる。
純粋に痛いだけなのはこいつの攻撃の特徴か。
いや、実際はただ痛いだけの攻撃が俺に当たるのはそこまで大きな問題ではない。
何より怖いのが、背中に背負い続けているアーネにこの攻撃が当たること。
さっきのすれ違いで、もし彼女にも当たっていたら。そう考えるだけで胸の奥がぎゅぅと締まる。
しかし塔の中は狭い。下がるだけではすぐに壁際まで来てしまう。
また前に抜ける?いや、それとも横?後ろはもう距離が──
「ぁ」
不味い。
近すぎてもう前にも抜けられない。横もこれでは追いつかれる。
詰み。
その二文字が脳裏をよぎる。
ならせめて、一度だけでも足掻く。
銀剣を抜いて正面から《波壊王》を睨む。
そんなものはまるで気にせず《波壊王》がさらに踏み込み、拳を俺に放つ。
その時にカチリ、と。
不意に首裏にあるスイッチを押し込まれたような感覚がした。
それと同時に、なにかの歯車が噛み合うような感覚。
その瞬間から、不思議なことに物がゆっくりと見え、それと同時に変なものが見えるようになった。
白い渦のようなうねり。それが《波壊王》の身体を広く覆っている。特に拳の周りに集中してるようで、白いうねりが多く見えた。
これが《波動界》か。直感でそう理解した。
だとしたら、今振り下ろされている右腕の肘。そこだけ渦が途切れている。
およそ紙一枚分程だろうか。それだけあれば、刃先が滑り込み、こじ開けて肉を斬るには充分。
そう思った時点で身体は動いており、銀剣は既に奴の魔術を斬っていた。
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