大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

波動界と剣2

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魔術を斬った。目には見えないが手応えがそう言っている。
その瞬間、《波壊王》が動いた。
出したはずの拳を強引に止め、腕ごと捻る。
すると《波動界》も一緒に捻れ、切れ目も一緒に捻れる。
そして渦が銀剣に触れた。
直後、耳障りなけたたましい音が鳴り響いた。
渦が銀剣を削ろうとし、銀剣がそれに抵抗する音。
抵抗出来ている。ならばこの機を逃す訳にはいかない。
折れるより先に肘を切り飛ばす。
そう判断した時にはもう剣は振り抜かれていた。
だがそれより先に、《波壊王》は後退の判断を下しており、既に間合いに奴はいない。
外した。銀剣はどうなった?
ちらりと見ると、渦に触れた右の銀剣は刃こぼれをし、ボロボロになっている。
だがそれだけ。折れてはいないし、ゆっくりとだが再生が始まっている。この調子なら三十秒もすれば治るか。
黒剣なら折れても鞘に入れれば即座に治る。が、先に黒剣が折れてしまう気がする。
今なら行ける。
次は俺が距離を詰め、再び右腕に狙いをつける。
しかし見たところ、先程の場所に切れ目がない。
時間経過で渦の位置が変わる?あるいは意図的に《波壊王》が動かした?
分からないが切れ目を探す所から──
「やはり、見えているのか」
《波壊王》がそう呟き、拳を握る。
そして突き出した拳を後ろに避けるのではなく、最小限の動きで顔を振って回避。渦とは充分距離をとりつつ、しかし見えている分相当楽に回避が出来る。
互いが示し合わせたように下がり、じっと睨み合う。
俺は奴の身体を覆う《波動界》の切れ目を見つけるため。
奴は俺の動きを見極め、一撃必殺の拳を叩き込むため。
「魔術を見る。そんなことをしてきた奴はお前で二人目だ……あの時は俺の実力不足かと思ったがそうでは無いらしい。彼奴と同じ目をしている」
ふと《波壊王》がそう呟く。
「あの時はちゃんと名前を聞かなかったが……改めて聞きたい。お前の名前は?」
「レィア。レィア・フィーネだ」
「そうか、あの男と同じ…俺の名はゼクター。今はただのゼクターだ」
「あぁ、知っているとも。《波壊王》ゼクター・アインズ」
そう言うと、男は僅かに目を細めた。
「……その男は死んだ。今はただのゼクター。妖魔族のゼクターだ」
銀剣が完治した──瞬間に俺が踏み込み、同時にゼクターも踏み込む。
ゼクターの拳を銀剣で一瞬受けて流す。再度けたたましい音が鳴り響くが、銀剣は僅かに削れただけ。この程度なら一秒そこらで治る。
銀剣が削れ、拳が弾かれ。
剣が切り込み、肘で弾く。
一歩下がれば一歩詰められ、一歩踏み込めば一歩引かれる。
ゼクターの《波動界》はどうやらどこかしらに必ず魔術の切れ目が出来るらしく、それを切れば恐らく先程のように攻撃が通る。
だが位置は自身でコントロール出来るようで、先程から細かく位置を変更し続けている。
恐らく時間にして一分かそこら。しかし俺達からすれば、何時間も戦っていたような感覚。
だがそれは不意に訪れた。
カチッと。
俺のあの歯車が噛み合っていたような感覚が突然切れた。
「ぁ」
見えていた渦は全て消え、身体を移動して回っていた切れ目も当然消える。
「消えたな。気迫が」
不味い、対処。剣で流せばまだ──
「《波動界》──全開」
瞬間、明らかに《波動界》の範囲外から、銀剣が思い切り削り取られた。
「!?」
《波動界》の拡張。もしかしてコイツ、《波動界》をずっと絞って使って──
「終わりだ」
そう言ってゼクターが拳を振り下ろした。
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