大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

一撃と盾

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一切の手加減無く右腕が振り下ろされる。
魔獣の硬い頭蓋骨であろうと貫く銀腕の、更に強化版。
当然、たかが一少女の頭蓋骨など紙のように貫き、押し潰す。
それが振り下ろされ、フライナの顔を潰さんと迫り、鼻に触れるほんの僅かに手前、指一本の隙間があるかどうか、と言ったところで異変が起きた。
フライナを中心に展開された半透明の白い膜が、俺の銀杭を止めている。
見た目は薄い癖に、絶大な威力を持った銀腕が全く貫けないでいる程の強固な守りを見せるそれは、一瞬強く輝くと、いとも容易く俺を吹き飛ばした。
『ッチ』
頭上に地面、足元に空が見える愉快な世界を嫌って上体を捻り、体勢を元に戻す。
つい十秒前まで人を殺そうとしていた銀腕を地面に突き刺し、重りアンカー代わりにして止まる。
『腐っても《聖女》、って所か…あれが噂の結界か?』
『あぁ、そうだな。あれが《勇者》を元に創られた新型ユニット…《聖女》の固有能力だ』
シャルが俺の疑問を肯定する。
『俺達《勇者》が使う《血界》とは真逆で、守る事、援護する事に特化した能力…それが《結界》だ。あの薄っぺらい守り一枚でも、崩すならかなりの攻撃力が必要だぞ』
『わかってるよ』
未だフライナを守るために残り続ける結界をじっと見つめ、ふと思った事をシャルに聞いてみる。
『あの結界…無意識に出るモンなのか?』
俺が初めて血界を使った日、あの時俺は、自分で意図してあの力を使った訳ではない。
『さぁ?俺は《勇者》であって《聖女》じゃなかったしな…まぁ、意識してじゃないか?じゃなきゃ特大の結界を張って領地を守るなんて出来ないしな…まぁ、仮に無意識だったとしても、お前の《血界》みたいに強く願わないと無理だろうなぁ』
…ふぅん。
なら。
『あと一歩、かね』
小さな小さな希望の様なものが芽生えた。
あるいはそれは、希望と言うには小規模で、余りにも当たり前だったかもしれない。
だが、まだ途中だ。
俺は答えを見せてもらっていない。
結界これがアンタの意識して出したものか、無意識に出したものかは分からないが──。
俺は最後に『死ね』と言ったのだ。
全力で、手加減なく。
文字通り、殺す気で。
それはある意味、俺の願いだと言い換えてもいいだろう。
それを──否定した。
もちろん、今までの願いでは直接そう言われたことなど一度も無かっただろうから、これだけは拒絶するのかもしれない。むしろ、それが当然だろう。
だが、それでもいい。
僅かなりとも可能性が──自分があるなら。
『それに賭けようじゃねぇか』
人間のなりそこないを、人間にするための賭けを。
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