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本編
感情と想い
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『変わることを望んでいる?違うだろ。お前は』
あぁ──気に食わない。
そんなモヤモヤを吐き出しながら、俺は聖女サマを追い詰める。
暴力ではなく、言葉で。
『俺がそう思ったから、そう望んだと思い込んだんだろ?』
自分から何もしない聖女サマを祭りへ引っ張り出したり。
好きな事をする様に言ったり。
およそ教会では出来ないような事をさせたから。
だから──護衛がなくとも戦えるように。
聖女自身が戦えるように。
教会では絶対に許されない事を。
「違い…ますっ…!!」
血を吐きつつ、掠れた声を上げて聖女サマが否定する。
「確かに……私はあなたの言う、通り……周り、の言う事を大人しく……聞き続けて、ました」
ガクガクと笑う膝を叩いて黙らせ、後ろに生えた木に身体を預けながら、形だけは立ち上がる。
「ですが、それはっ…正しいと思ったから!!」
弱々しい身体とは正反対に、その言葉は強く、苛烈。
「正しいと思った事に従って何が悪いのですか!?それが正しいのなら、それに従うのが正しいでしょう!!」
『違ぇよ、バカ』
パァン!!
俺が聖女サマの頬を全力で叩くと、凄まじい音を辺りに撒き散らした。
やっと立ち上がっていた聖女サマが、今の一撃で再び崩れ落ちる。
『俺が言ってるのはな、正しいか間違ってるか、じゃないんだよ。終始変わらねぇ。ずっとこう聞いてるんだよ。お前の意思はどこにあるんだ?』
人の意思を反映して、それが望む動きをする。
正しい事をする。
たとえそれに、己の意志が無くとも。
『お前さ、自分の意思で嫌だ、とか言ったことないだろ?多分、その場の雰囲気に合わせて「最も正しいと思える行動」をしてるんだろ?……そういや、何かしてもらうたびに教会が報酬を出すとか言ってたっけな。自分じゃどんな行動をすれば相手の行動に見合った行動になるか分からないから、全部教会に丸投げ。後は教会が全部やってくれる。そうだろ?わぁお、なんてお手軽ゥ』
疑問の形を取ってはいるが、ほとんど断定口調。
その上でおちょくるように言う。
「………」
『言い返さねぇのか?気絶てる訳じゃねぇだろ?』
不思議な事に、鎧をつけているというのに聴覚、視覚、触覚が非常に鋭敏になっている。
呼吸がブレた感じは一切ない。
狸寝入りは効かない。
「………ですから」
『あん?』
「その通り、ですから」
やや自嘲気味な視線をこちらに投げつつ、そう口にする聖女サマ。
「そうです。あなたの言う通りです。私は要求に嫌だと言ったことすらない、鏡のような存在です。幻滅しましたか?」
──あぁ、やっぱり。
そう思うと同時に、ずっと心の中でイラついていた「気に食わない」という感情が、形を失って溶けていった。
いや、形を失って溶けていったと言うよりも、支えを失って崩れ落ちた、と言うべきか。
俺が護りたい、そう思っていた聖女様は──余りにも自分を持っていなくて、俺が持っていた理想とはかけ離れていた。
──聖女は自分を持っておらず。
──それ故に勇者は目標を失った。
俺は──
──この人を、護りたいとは思えなくなってしまった。
『…………………そうかよ』
もういい。
想起するのは大きな杭。
髪を右腕に集め、束ねると同時に、鎧を全体的に薄くして、余った部分で右腕の銀腕をコーティング。
一撃必殺の銀杭を形成する。
『死ね』
俺は一切の躊躇いなく、それを聖女サマの──いや、フライナ・シグナリムの顔に振り下ろした。
あぁ──気に食わない。
そんなモヤモヤを吐き出しながら、俺は聖女サマを追い詰める。
暴力ではなく、言葉で。
『俺がそう思ったから、そう望んだと思い込んだんだろ?』
自分から何もしない聖女サマを祭りへ引っ張り出したり。
好きな事をする様に言ったり。
およそ教会では出来ないような事をさせたから。
だから──護衛がなくとも戦えるように。
聖女自身が戦えるように。
教会では絶対に許されない事を。
「違い…ますっ…!!」
血を吐きつつ、掠れた声を上げて聖女サマが否定する。
「確かに……私はあなたの言う、通り……周り、の言う事を大人しく……聞き続けて、ました」
ガクガクと笑う膝を叩いて黙らせ、後ろに生えた木に身体を預けながら、形だけは立ち上がる。
「ですが、それはっ…正しいと思ったから!!」
弱々しい身体とは正反対に、その言葉は強く、苛烈。
「正しいと思った事に従って何が悪いのですか!?それが正しいのなら、それに従うのが正しいでしょう!!」
『違ぇよ、バカ』
パァン!!
俺が聖女サマの頬を全力で叩くと、凄まじい音を辺りに撒き散らした。
やっと立ち上がっていた聖女サマが、今の一撃で再び崩れ落ちる。
『俺が言ってるのはな、正しいか間違ってるか、じゃないんだよ。終始変わらねぇ。ずっとこう聞いてるんだよ。お前の意思はどこにあるんだ?』
人の意思を反映して、それが望む動きをする。
正しい事をする。
たとえそれに、己の意志が無くとも。
『お前さ、自分の意思で嫌だ、とか言ったことないだろ?多分、その場の雰囲気に合わせて「最も正しいと思える行動」をしてるんだろ?……そういや、何かしてもらうたびに教会が報酬を出すとか言ってたっけな。自分じゃどんな行動をすれば相手の行動に見合った行動になるか分からないから、全部教会に丸投げ。後は教会が全部やってくれる。そうだろ?わぁお、なんてお手軽ゥ』
疑問の形を取ってはいるが、ほとんど断定口調。
その上でおちょくるように言う。
「………」
『言い返さねぇのか?気絶てる訳じゃねぇだろ?』
不思議な事に、鎧をつけているというのに聴覚、視覚、触覚が非常に鋭敏になっている。
呼吸がブレた感じは一切ない。
狸寝入りは効かない。
「………ですから」
『あん?』
「その通り、ですから」
やや自嘲気味な視線をこちらに投げつつ、そう口にする聖女サマ。
「そうです。あなたの言う通りです。私は要求に嫌だと言ったことすらない、鏡のような存在です。幻滅しましたか?」
──あぁ、やっぱり。
そう思うと同時に、ずっと心の中でイラついていた「気に食わない」という感情が、形を失って溶けていった。
いや、形を失って溶けていったと言うよりも、支えを失って崩れ落ちた、と言うべきか。
俺が護りたい、そう思っていた聖女様は──余りにも自分を持っていなくて、俺が持っていた理想とはかけ離れていた。
──聖女は自分を持っておらず。
──それ故に勇者は目標を失った。
俺は──
──この人を、護りたいとは思えなくなってしまった。
『…………………そうかよ』
もういい。
想起するのは大きな杭。
髪を右腕に集め、束ねると同時に、鎧を全体的に薄くして、余った部分で右腕の銀腕をコーティング。
一撃必殺の銀杭を形成する。
『死ね』
俺は一切の躊躇いなく、それを聖女サマの──いや、フライナ・シグナリムの顔に振り下ろした。
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