大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

血と言葉

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「ぐっ……!」
鼻から血を垂らしながら、まだ理解できないと言ったふうに聖女サマがめつけてくる。
「誰か、誰かいませんか!?助けてください!!」
流石に不味い、そう思ったのだろうか。
聖女サマが大声を張り上げる。
『いいよ、正解だ』
そんな聖女サマと対照的に、静かに俺が言う。
『それが正しい聖女の振る舞いだよ。襲われる度に助けを呼んで、英雄やら護衛の影に隠れて、後ろからそいつらを助ける。あぁそうだ、正解だとも。もう一度言ってやる。
「な、何が言いたいのですか!!」
明らかに激昴した聖女サマに、まだ静かに答える俺。
この間にも、俺は攻撃の手を緩めない。
しかしこの数日で、多少慣れたのか、攻撃を避ける事は出来なくとも、和らげる事ぐらいは出来ているようだ。
『大方、そうしろって言われたんだろ?教会のおエライ禿爺ハゲジジイ共に。いや?そもそも英雄から離れるな、か?どっちにしろ、言われた通り、それに?』
「そうです!それの何が悪いのですか!!聖女とは護られるべき──」
『そう、護られるべき存在だ。その存在が、護られなくても大丈夫な存在になろうとしてる。その意味が、アンタ分かって言ってる?』
「そ、それは────がッ!!」
俺の足が跳ね上がり、聖女サマの鳩尾に鋭く突き刺さる。
堪らずその場にうずくまろうとする聖女サマのこめかみを、裏拳で殴り飛ばす。
土埃を上げながら地面を滑り、生えていた木の根元にぶつかって聖女サマが止まる。
すぐに身体を起こそうとしているが、視界が定まらない上、腹部の激痛でそれがままならないようだ。
そんな聖女サマに一歩、また一歩とゆっくり近づきながら口を開く。
『多分、俺が思うに、だが──アンタ、聖女になってから…いや、あるいは産まれてからずっとか?どっちにしろ、?言い換えるなら…ずっと誰か自分以外の言いなりだったんじゃねぇの?』
そう言った瞬間、聖女サマの身体がピタリと止まる。
『…オイオイ、まさか図星か?』
うずくまったまま動きを止めた聖女サマに目線を合わせるようにしゃがみこみ、さらに言葉を続ける。
『それは間違っても《聖女》とは言わねぇよ。今までの聖女がどうだったかなんてよく知らねぇがな、今のお前は聖女じゃない。人形ナナキの作った人形よりも人形らしい、文字通りの《人形ヒトガタ》だ』
「──ッ!!」
睨みつける人形にさらに言葉を続けようとしたところで、聖女サマが口を開いた。
「そんな…ッ!自分を変えたくて…」
『…ン?』
「そんな事、言われるまでも無く…知っています!!そんな風に言われる自分を変えたくて、護られるだけの自分を変えたくてッ……!だからあなたにお願いしたんじゃないです──がッ!!」
喉に突き刺さる爪先。苦しそうに咳き込む聖女サマを見ながら、俺は口を開く。

「!?」
どこが!?これのどこがそうなのですか!?そう叫んでいるのが何となく分かった。
『じゃあお前さ、聞くけど──俺がただひたすらお前を殴るって言った時さ、それを理不尽だとか、おかしいとか、あるいはもっと単純に、気に食わないとか思わなかったの?この私を殴るとは!みたいな。初日はやらなかったり、半日やらなかったけどさ、ほぼ二日間はお前、ひたすら殴られ続けてたんだぜ?何度も死にかけてさ。なのにさ、お前の目から感じたのは何だったと思う?』
「………」
『「信用」…あるいは「信頼」…もしかしたらそれより深かったかもな。少なくともそれに類することなのは確かだ。わかるか?お前は変わりたい──そう思った上で、殴り続ける相手を一方的に信じて…違うな。一方的に自分のことを委ねたんだよ。
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