大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

攻防と血

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嫌いだ嫌いだ。大ッ嫌いだ。
今日だけで何十回何百回と心の中で言ってきた言葉の相手。そいつとの共同戦線。
戦い始めて一分どころか、三十秒もあれば理解した。
恐ろしく戦いやすい。
まるで生まれてこの方何十年も側にいて戦った誰かが相方であるかのように、向こうの動きを見ずとも把握出来る。
俺が少しでも「不味いかも」と思った時点で血鎖が飛んでくるし、俺も半ば無意識で向こうにマキナを飛ばしている。
しかしこれは、互いが互いを思いやるような、そんな美しい共同戦線ではなく、もっと単純で荒々しい削りの戦い。
ただただ極端に言えば、自由にやって、その結果偶然相方が助かった。それだけの、結果論を美談にしたようなしょうもない話。
だが言い方を変えるならば──どんな動きをしても、必ず俺と《勇者》の動きが噛み合うのだ。
正直言うと気色悪い。ろくすっぽ会ったことの無いやつが自身のことを隅々まで知っていると、驚きや何より嫌悪感が先立つだろう。それと同じ事だ。
だが不思議と、それ以上に快適な戦闘。
俺の無意識を埋めるような心地良さすら感じる動き。
互いに自然体でありながら、その行動に一切の無駄なく、それでいて互いに利となる、気持ち悪いぐらい気持ちいい戦闘。
「ッ!」
魔族の蹴りを踏み込みつつ避け、双刃を下から上に回し斬る。魔族は辛うじて下がって回避するも、俺はさらに手を伸ばして血鎖を伸ばす。
頭を真正面から砕き、吹き上がる血を血海で吸収。そのまま真横に思い切り薙いで数体の魔族を巻き込む。
「やるなお兄ちゃん!助かった!」
何かよくわからんが向こうの手助けをしたらしい。
魔族の血との相性は良いので、血海が使えるのはありがたい。血は潤沢だし味方も強い。
戦闘に問題は無いし、あとはもう十分…いや、最初アーネは三十分って言いかけてたし、残り二十分ぐらい粘るだけ。
「余裕か《勇者》ァ!?」
「丸一日でも問題ないね!」
この空中都市にどれだけの魔族がいるか知らないが、何十体もの魔族を倒したにもかかわらず、未だ減ったようにすら見えない。
魔術を受けていつの間にか発動した血鎧のエネルギーを双刃に乗せて近くの魔族に叩き込み、爆散していく魔族を盾に別の魔族が決死の突撃をしてくる。
しかし《勇者》が切り飛ばした魔族の腕が偶然こちらに飛んできて、一瞬魔族の動きが止まった。
「チィッ!!」
即座に双刃を解除し、双剣に持ち直して応戦。
体勢を崩した魔族は即座に一度下がるが、そこに切り込んだ《勇者》が数体の魔族と共に巨大な血刃で斬った。
『無茶苦茶やるな』
「こっちも大概だがな」
《産獣師》の白い屋敷を真っ赤に染める数十体分の魔族の血。それらを血海を利用して戦闘中、少しずつ血界を組み上げていた。
第一と第三血界を並列解放し、膨大な血の量に任せて辺りにぶっ散らす。
「《大血鎖刃》」
一気に解放したそれが辺りの魔族を蹴散らし、押し潰し、断ち切り、それを見た《勇者》が軽く口笛を吹いて手を叩く。
「すげぇな」
「まぁ、一応《勇者》モドキみたいなもんだしな。俺も魔族に対してまるで何も思わん訳じゃない。あと呼び方いい加減改めろ」
辺りの魔族を一掃し、真っ赤な空白が生まれた。
「ば…化物め…!」
運良く片足だけで済んだ魔族が腰を抜かし、涙と鼻水に塗れながらそう言った。
「否定はしないさ。なんなら悪魔だのなんだのって罵ってくれて結構。今からやることだってお前らから見たら大悪人もいい所だろうしな」
「なにを──」
俺が深い意味もなく答え、魔族が言葉を言い切る前に、《勇者》がそいつの頭を真っ二つに斬り、ため息をついた。
「じきにまた次が来るか」
「聞こえるか。流石本物」
「………俺達は別に、アンタを偽物と思っちゃいないけどな」
《勇者》がそう言い、同時に下から上に駆け上がる聞きなれた足音がした。
「んあ?」
「終わりましたわ!大丈──」
アーネが辺りの惨劇を見て、思わず口元に手をやる。
「大丈夫か?」
「っ、平気ですわ。それよりこの場から逃げますわよ!」
「あぁ、だな。すぐにまた別の魔族が来るらしいし──つか、かなり早く終わったようだが」
そう聞くと、アーネが答えた。
「私は結局何もしてませんわ。最初からこの空中都市の進路に陽光楽園が設定されてありましたもの」
「…あ?」
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