大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔法陣と血

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アーネを抱えたまま三秒とかからず五百メートルの距離を走り抜け、白キノコとずっと呼んでいた《産獣師》の屋敷に突入する。
『警戒しとけよ』
言われなくても。そう心の中で返し、辺りを見渡す。
「居ないか…」
「おい!魔法陣ってのはどこなんだ!?」
《勇者》が苛立たしげに喚き、舌打ちしつつ下へ向かう階段を探す。たしか前に来た時は──あった。あの扉だ。
「こっちだ!」
前回はなかった南京錠をねじ切り、魔法のロックを第三血界で切り裂き、そのまま真っ暗な階段を駆け下りて下へ下へ。
「言ってこい!俺がここで食い止める!」
そう言った《勇者》を上に残して階段を駆け下
りる。緋眼が無ければ確実に蹴つまづいて転んでいただろう。
しかしその長い階段もやがて終わり、その先は小部屋へと繋がっていた。
「《炎よ》」
アーネがそう言って炎を出して辺りを照らすと、部屋いっぱいに細かく書き込まれた魔法陣が。
「これが──」
「あぁ、この都市を制御してる魔法陣だろ」
しばしアーネが絶句し、じっと魔法陣を見つめる。
「ごく短時間だけ制御を奪うだけならなんとか…三十分で…いえ、二十分で終わらせますわ」
「頼む、任せた」
「えぇ、任されましたわ」
そう言って持ってきた荷物を髪から出して置く。比較的小さな皮袋だが、中にはアーネが持ってきた魔法関連のアイテムがあったはず。後は親指分程マキナを一緒に置いて、部屋を出る。
流石にここで血を置いていくほど余裕は無いので、俺に出来るのはここまで。後はアーネを信じるだけだ。
今度は階段を駆け上がり、再び地上へ向かう。
「マキナ、メッセージ飛ばしとけ。チィズだ」
『内容は』
マキナを装備しつつ応答。相手はどこにいてもメッセージが届くらしい西学のチィズ。
銀剣も出しておきたいが、重すぎて走るのに邪魔なので直前まで出せない。
「一時間以内に陽光楽園へ大きな打撃を与えるとでも言っといてくれ。それと、出来るならこっちの座標送って代わりに向こうの座標受け取れ。そこに落とす」
『西学ごと巻き込むつもりですか』
「あくまで目安だ。奴らをまとめて潰すつもりは毛頭ない。座標貰ったらアーネん所に送れ」
『承知しました。《魔王》の件はどうなさいますか』
色々考え、少し黙り、悩みつつも答える。
「あー、クソ強力な魔法がじき完成するって言っといてくれ。あとこっちももう少ししたら陽光都市に着くって」
そう言った瞬間、地上に出る。
「ん、早かったな。どんだけかかるって?」
ニィ、と口角を吊り上げて笑う《勇者》。既に辺りは血で染まっており、本人自身も相当血に塗れていて、それが返り血なのか自身の血なのか分からない有様。
転がっている死体の数は少なくとも四つ。そしてそれの数倍の魔族が俺達を取り囲んでいた。
しかし目の前で起こった光景に腰が引けたのか、魔族の攻撃も一旦は止んでいるようだ。
「二十分。だがそれ以上かかる可能性は充分あるな」
「かかるな。いや、ヒトにしちゃ早いな。滅茶苦茶早い」
「後は俺達がここを守り切れば万事オッケーって奴だ」
そう言って銀剣を抜く。
「お前ら一体なんなんだ…!?どうやってここに来た!?」
魔族の誰かが怯えきった声音でそう言った。
それに対し、《勇者》がさらに笑みを深めて答えた。
「《勇者》だよ。フィーネの名を持つ、な」
「なんっ」
直後、《勇者》が踏み込んだ。
一瞬だけ加速し、手に持つ長剣の間合いの必要以上に接近し、相手の顔をじっくりと舐めまわすように見つめる。
「ッ!?」
魔族が何か反応するより先に、《勇者》が踏み込み以上の速度で剣を下から上に振り抜いた。
そして即座にそれを前蹴りで蹴飛ばし、元いた場所にくるりと回転して戻ってくる。
「さぁさぁ!かかってこいよ!へっぽこ魔族共!死にてぇ奴から前に出ろ!そいつらと一緒のところに送ってやる!」
『…お前は何か言わなくていいのか?』
シャルがそう言う。
「特にねぇなぁ」
とは言え、今のうちに銀剣を振り回すのに必要なエネルギーは回し終えた。
あとは都市一つ潰す勢いで魔族を倒し続けるだけだ。
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