大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と仲間

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つー訳で翌日、俺とアーネ、そして《勇者》が馬車に乗って聖学を出た。
集合場所に指定されたのが結界のすぐ近くなので、一日早く出る必要があったからだ。ちなみに一緒に着いてくる先生とかは居ない。
馬車を飛ばしつつ、御者台に一人座って地平線を眺めながら溜息を着く。
「……疲れた」
『…結界から出る云々どころか、まだ西学連中と会ってすらいないんだが…まぁお前に同情する』
「つっても想像はついてた。お前が向こうにいたら同じ反応してたろ」
『まぁな』
何の話か?アーネと《勇者》を会わせた時の一悶着の話だ。
顔を合わせた時点で《勇者》がマジマジとアーネの顔を見、俺に向かってこう聞いた。
「なんだこいつ」
「あー、アーネつってな。今回の任務に同行する新しい二つ名持ち…まぁ要するに手練だ」
「コイツが?俺達に?」
「戦力としては申し分ない。それに今回の目的は魔族を潰すのが主目的じゃない。あくまで救出だ。俺達だけじゃ無理な事もあるだろ?」
「そりゃ…まぁ…むぅ…」
「改めて、アーネ・ケイナズですわ。よろしくですの」
そう言って手を差し出すアーネ。しかし《勇者》はその手を取らずにこう言った。
「ん…あぁ。じゃあ俺とコイツの二人で適当に行くから、お前はお前で適当に西学?の奴らと組んどいてくれ」
その言葉にアーネは目をぱちくりさせ、俺の方を見る。
「あー…あー?」
あぁそうか。アーネがいたら血界使えねぇって思うわな。
「いや悪い、言い忘れてた。アーネにゃもう全部バラしてある。《勇者》とかその辺な」
「は?」
とまぁそこから大変だった。
《勇者》はキレて速攻でアーネを殺そうとするし、それを俺がどうにか止めようとして、出発前に互いに消耗するのは不毛だと即座に判断。結果的に何も起こらず有耶無耶になりはしたものの、心臓に悪い。
もしアーネに手を出したら、その時点で全ての対象を無視して全力でお前を殺す。そう宣言してあるので、アーネを殺して《勇者》や他の情報を漏らさないようにするメリットより、大事の前に俺と潰し合うデメリットの方が大きい。少なくともこの任務中は《勇者》もアーネに手が出せないはず。
つか、ただでさえ《勇者》が近くにいるだけで互いに摩耗してんだから、これ以上面倒事は起きないで欲しいものだ。
「なぁ」
「面倒事が向こうからやって来やがったよ…」
後ろの小窓から《勇者》が俺に話しかけて来たので、舌打ちしつつ「なんだ」と振り向かずに聞く。
「どこまで話した?」
「全部。俺が知ってる話はな」
「じゃあお前、どこまで封憶門開いてる?」
「ん…」
実は封憶門自体を開いたのは最初の一回ぐらいしか覚えていない。
ただ、いつだったかのレイヴァー曰く、相当数開いているという話を聞いた。
「結構開いてんのは覚えてる。そんだけだ」
「ふざけてんのか?」
「至って真面目だ。よく覚えてねぇ」
「ンな訳無いだろ。あんなモンを開く回数、忘れたくても忘れられない」
「って言われてもな。勝手に開いてたらしいし」
「…何?」
「そもそもお前とお前は厳密には同じ《勇者》じゃないしなぁ。そういう理由で違うのかもしれん」
「…同じ《勇者》では無い?どういう事だ?」
「んあ?知らなかったのか?」
意外だな、それこそレイヴァー辺りがすぐに気づいていそうなものだが。
「色々と推測の話も混じるが、お前と俺とじゃ作った大元の神が多分違う。お前はグルーマルが作ったヴェナム由来の普通の《勇者》、俺は多分…オルドだ…つっても見る感じそっちはそっちで俺より血の力は強いし、再出現のスパンもかなり短くなってる。何か手が加わってるだろうがな」
「オルド?そんな神が…ふむ、世界か。世界が、いや世界の神がオルド…成程。それなら枠が足りるか」
「今王都にいるシステナの加護を得た《聖女》、ヴェナムの力を継いだ《勇者》、グルーマルの被造物である《王》、それと宙ぶらりんになってるのが俺だな」
「ならお前はどこの味方なんだ?」
僅かに《勇者》の纏う空気が変わる。
しかし俺はそれを意に介せず、振り向きもせずに答える。
「ヒトの味方さ。これでも《勇者》のつもりなんでね」
そう言うと、《勇者》が離れていく気配がした。
「おい、アーネ…だったか?今の会話全部聞けたか?」
「耳と記憶力はいいですわよ。全部丸ごと復唱してみせましょうか?」
「やってみろ」
と《勇者》が言うと、アーネは苦もなくつらつらと同じセリフを言っていく。
「何故ただのヒトが今の会話を聞ける…?理解出来る…?」
《勇者》がそう呟いた。
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