大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

地上とガキ

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傷つき、疲れきってもやらなければならないことというのはあるものだ。
落ちた右腕とその手が握る黒剣を回収し、右腕は髪の中に収納。煌覇で天井に突き刺さったままだった銀剣もバラした鎧の一部を飛ばし、周りの天井を削って落として回収。
右腕を治し、さらにその場で俺のさっきの行動を咎めようとしているのが見え見えな聖女サマに、屋敷に戻ってからでいいと言いながら階段を登り、地上へと戻る。
途中、アーネに肩を貸そうか聞かれたが、痩せ我慢となけなしのプライドで遠慮しといた。
一応塞いだとはいえ、肺に穴が空いているので呼吸の度にそこがキリキリと痛むし、肋骨だって折れたのを強制的に固定しているだけで、動き回るとクソ痛い。右腕も後から繋げてくれるらしいにしろ、今はなく、血もかなり流れてしまっている。
もしも昼間だとか、明かりがある所だったなら、俺の顔は蒼白を通り越して死体のような色になっている事が分かっただろう。
「──ん?」
流石にヘルムは解除し、しかし義手が無ければ目立つかと思い、鎧を義手にしたまま外に出ると、誰かいた。
俺より小さい背丈のそれは。
「……お前、いつかのガキか」
アーネに街を案内してもらった日に、俺の髪を引っ張ったイタズラ小僧だった。
「どうした、何してんだ?迷子…って訳じゃ無さそうだが」
親とはぐれたのか?と思ったが、そうでも無さそうだ。
どうしたのかと思って近づいてみると、その子も俺の方に走ってきた。
「お、お?」
とりあえず避けるわけにもいかず、受け止めてやる。
どんっ、と軽すぎない衝撃と共に。
下腹部に焼けるような痛み。
「……ッッ!!」
義手でガキを殴りかけ、これで殴れば死にかねないと判断、左手で全力で殴ってガキをぶっ飛ばす。
腹を見ると、教会で神父が持っていた、大きなナイフが根本まで俺の腹に突き刺さっていた。
「ちょっとあなた!いきなり子供に何を──」
そこで角度的に見えていなかったらしいアーネの言葉が止まる。
俺の腹からだくだくと漏れる血は、止まる気配が一切ない。
クソ…あのガキ、突き刺した瞬間、かき混ぜやがった。
偶然か、それとも意図的にか知らんが、どの道、俺の身体に甚大なダメージが入ったのは間違いない。
これでは髪で傷口を縫っても意味が薄い。
下手をすれば内側で血が漏れ、腹の中に血が溜まる。
「聖女サマ、今さっき殴った糞ガキ、どこだ?」
さっきまでの戦闘で血が足りていない。
いつもなら何とかなっていたかもしれないが、弱った所に今の一撃。
正直、致命傷だ。
急速に狭まる視界で糞ガキを視認できない俺は、そう聖女サマに聞いた。
「えっ、あ…逃げようとしてます!」
「そりゃそうだろバカ!糞、使えねぇ!」
俺は場所を聞いたのだが…クソ!
慌てて立ち上がるような音、それが小さな足音を立てて遠ざかろうとしている音。
まずい、逃げられ──。
「《マジック・ウィップ》!」
アーネが何か魔法を使ったらしい。足音が急に止まり、転んだような音が聞こえた。
「捕まえましたわ!」
「よくやった!アー──」
ネ、まで言えなかった。
俺はその場で崩れ落ち、意識を失った。
次は全治までどのぐらいかかるのか…なんて考えながら意識を手放した。
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