大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

理由と目的地

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二時間ほど家の中で時間を潰し、シエルをモーリスさんに預けて再び外に出る。
もちろんアーネと聖女サマもついてくる。
「うぉ」
通りは昼とは様子をガラリと変えていて、まるで初めて来た異国の地の様な気さえした。
日が落ち、空を照らしていた太陽の代わりに空に浮かぶのは大きな青白い満月と、その周りで輝く星々達。
その輝きを受けて祝福されたようなこの地に広がる人々の活気は、太陽が落ちてもなお沈むことはなく──むしろ活気が溢れていた。
どこの屋台も昼よりも忙しそうにしながら、しかしどこか楽しそうな表情なのは気のせいではないだろう。
「…さて、アーネ。どこから回る?」
「そうですわね、とりあえず──」
『おいおい今代の。大丈夫なのか?』
あ?シャル、何?どったの?
『あのモーリスとか言う爺さん、なんかよく分からんけどカマかけて当たりだったんだろ?そんな所にシエルを預けて。かなりの手練っぽかったが…あれがスパイなら人質とかにならねぇ?』
あぁそれ?それは全然大丈夫。
九割以上の確率で、モーリスさんはこっち側。間違っても変な集団の方では無いと俺は思ってるから。
『あ?何でまた』
向こうの目的は聖女サマの暗殺、あるいは身柄の拘束とかどっかそんな感じだろ?なのにこの一週間、特に何も無かったし。
わざわざ何回か屋敷から引っ張り出してやったけど、釣れもしなかったし。普通、スパイとかだったら直接暗殺か…もしくは俺がベルの所に行くことを教えるだけでいいはずだけど、中じゃ何も無かったし、外でもオッサンに絡まれた程度だったしな。
多分、モーリスさんが俺の出身を聞きたがったのは独自に調査してても分からなかったからじゃねぇ?
『…あぁ、家の人を一人ひとり裏とって確認してたのに一人だけ分かんなけりゃ…』
そういう事。シエルのことがわかったらしいってのは驚愕の一言だけどな。
「──ちょっとあなた!聞いてますの!?」
「あ、悪ぃ。ちょっと考え事してた。もっかい言ってくれねぇ?」
そう言うとアーネは憤慨しながらも再び候補を挙げていく。
が、俺はそれを無視。
「アリス、どこへ行きたい?」
「…私…ですか?」
『おい、アーネの視線が…』
知ってる。何で言わせたこの野郎って内容の視線がビシバシ飛んできてるのは分かってる。
「…あの、なら、もし良ければ…」
「おう、昼間の焼き菓子の所か?パンの間に肉やら野菜挟んでたあの出店か?それとも軽く揚げた肉に胡椒まぶして出してくれたあの屋台か?」
「なんで全部食べ物関連なのですか!!行きますけど!!」
いや、ずっと食ってたじゃん。そしてやっぱり行くのかよ。
言わねぇけどさ。
溜め息と共に聖女サマが行きたい場所を口にする。
「あの、教会に行きたいのですが…」
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