大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

雷光と誇り

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さて。
「…本当にやるのか?」
と。
渋い顔で俺がそう言うと、何故かユーリアがそれに答えた。
「だって残りの組み合わせはレィアと《雷光》の二人だろう?」
「いやまぁ、そうなんだが…」
俺としては一応《雷光》に言ったつもりだったのだが。
そう思って《雷光》の方を見ると、
「疲れているなら休憩を挟むか?」
と言われた。どうやらやるつもりのようだ。
「…疲れてない訳じゃないが、疲れたってぐらい疲れた訳じゃないから大丈夫だ」
「えらく遠回しな言い方だな」
遠回しにそれ以外の理由でやりたくなかったって話を察して欲しかったんだが、それを《雷光》に求めるのは無理だったらしい。
再びマキナを装備し、金剣を出しかけ、少し考えて銀剣を出す。
「いつも…ってか、最近になってよく考えるようになったんだが」
「どうした急に」
対面で構える《雷光》がどうリアクションしたらいいのか困ったように応じる。
「あぁいや、ただの雑談だ。深い意味は無いし、もちろん時間稼ぎって意味もない。ちょいとお前の意見を聞きたくてな」
「少しぐらいなら構わないが…それで、何を考えるんだ?」
「あいつが強い、こいつが弱い、って簡単に言うけどさ、その強い弱いってのはなんなのかー、って話」
特に今まで考えたこともなかった。今まで俺は強いから強いという、ただ漠然とした考えで強くあろうとしていた。
しかし、そうあるだけではダメなのだと言われて、強いとは何かに勝つことでは無い、倒すことでは無いと言うことを知った。
そう知った時、アーネはきっと俺よりもずっと「強い」のだと分かった。
だが、何故彼女が「強い」のか、感覚的にしか理解出来ない。
「それは精神的な話か?それとも…こういう戦闘的な話か?」
「どうだろ…多分両方なんだろうな。どうしても俺は不完全だから」
強くなる、強くあるという事だけを支えに生きてきた。目標にしてきた。
己が最強であるとは言えないものの、極みのひとつに至ったと自負もしていた。
それが勝てなかった。
その時、最後の最後で堪えていた支えが、ふっ、と消えた。
きっと俺は心が弱くて、思ったより弱くて。
だから全くもって強くはない。
そういう話を包み隠して、さして親しくない間柄だからこそ聞いてみた。
「……よく分からんが、物の尺度というものは実に曖昧だ。ましてやそんな前提もあやふやでは尚更な。精神的な話なら、心の支えという言葉があるように、何か大切なものを決めておくといいんじゃないか?普通に戦うという面での強さなら、お前は十分だと思うが」
「その心の支えが折れて、自身が弱いって思ったら?お前の持つ《雷刀一閃》。あるいはそれ以上の自負を持つ最強の一撃が全て相手に効かなかった時、お前は二つ名を名乗れるぐらい強いって言えるのか?」
「あぁ、なるほど…そういう話か。なんだ、それなら話はもっと簡単だ」
ぽん、と手のひらを打つ《雷光》。
「その程度で折れるなら、そもそも二つ名など継いでいない。私は私が強いと言う証明の為に《雷光》を名乗っている。二つ名だから強いのでは無い。仮に私がその仮想敵に無様に敗北したとしても、命を賭して一矢を報いる。それが私の強さだ」
「お前が負けてるのに強いのか?」
「勝ち負けと強い弱いは別の話だ。勝った者が強いことが多いだけだ」
そう言って、《雷光》が腰から手を離して刀に手を添える。
「やっぱり《雷光》も『強い』んだな」
「当然」
なら、二つ名を手にし続けている俺の強さはどこにある?
守ることを否定され、守ることが出来ず。
戦いで生きることを物と評され、けれどそれしか生きることを知らず。
心の在り方ですら未だ定まらない、形だけの亡霊のような俺。
強くなると、強く在ると誓ったのは遥か昔。しかしその頂は高く、そして登るにつれて上下があやふやになる。
俺が極めたと思っていた物もまた、他の強さに負け、姿を消した。
「ぶつかって、砕けて散ったシィルの欠片ピース。それが形作るのは…さて」
そう呟いてみるも、答えは出そうにない。
静かに腰の銀剣に手を下ろしつつ、いい加減構える。
今は答えは出そうにない。だが、見つかりはする。そういう確信がどこかにあった。
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