大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

チンピラと金貨

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あの金属…ミスリルだっけか?アレを潰して他の金属に混ぜた所で俺と金属との繋がりが完全に絶たれたのがわかった。
正直、ずっと繋がったままだったらどうしようかと思った。
さて、前回の話では自分とベルしか出てこなかったが、聖女サマとシエルはどこにいたのか。
答えは単純、自由に歩かせてた。
もちろんそこまで遠くには行かせてないが、シエルも一緒だし、多分大丈夫だろうと思ったのだ。
まぁ、この辺りは武器屋とか防具屋ばかりで特段面白くも何ともないし、人もいないのだが、多少の気晴らしにはなるだろうと思って。
こっちの用事も終わったので、至る所が痛む身体をスキルでやや強引に動かしつつ二人を探していくと…いたいた。
…んだけど。
聖女サマとシエル、あとは知らねぇオッサンが一人。
『…なんか揉めてねぇ?』
だな…。
「よう、どうした?」
流石に知らぬ存ぜぬではいかんので、声をかける。
「………おかあさん…」
「あ、レィアさん。用事は?」
「もう済んだから帰んぞ、ほら」
二人を連れて、さて帰──。
「おいそこの銀髪!お前何様だ!?」
オッサンが引き止めやがった。
面倒なのに絡まれたな…。
『勇者様って言ってやれ』
やめろシャル。さらに面倒になる。
「……何なに?なんかあったのか?」
「いえその…私の不注意でこちらの方にぶつかってしまって…」
「見ろよほら!ここんとこ!そこの女のせいで俺の一張羅が台無しだ!」
「…はぁ、それが?」
オッサンが指さした所には確かにシミが。
周りが少し濡れているので、多分飲み物か何か持っていたんだろう。
が、その服は至る所が汚れ、ほつれており、今更シミが増えたところで大差ない気がする。
それに、一張羅と言っているが…その辺の店で適当にシャツでも買ってきた方が上等そうだな。
「それが?じゃねぇよ!それなのにこの女、謝るだけで通り過ぎようとしやがってよぉ!」
「あー、何?金払えって?」
馬鹿と会話するのに疲れてきた。
「お、おぉよ!なんだ、話のわかる奴じゃねぇか…」
オッサンが言った額は、多分シャツなら十枚買ってもお釣りが来るような値段だった。
はっきり言って、こんなに払うのは馬鹿ぐらいだろう。
しかし。
「ふぅん、ほらよ」
髪の中から金貨を適当に取り出し、オッサンに放り投げる。
「おっ、おぉ?」
「これで充分だよな?」
俺が投げた金額は、オッサンの言った値段よりさらに多い。
「これで文句ないだろ?ほら、どこにでもさっさと行け」
そう言うと、オッサンは満足そうにどこかに歩いていった。
「…れ、レィアさん、流石に金貨をあんなに渡すのは…!」
硬直していた聖女サマが顔を青くして言ってくる。
「あん?あぁ、別に構わねぇよ」
俺はそれに冷静に返す。
「あんな言いがかりにあんな金寄越すのは馬鹿だって言いたいんだろ?」
「え、えぇ、そうですが…」
「実際、俺は金をやるつもりは小指の先程にもないから」
「…はい?」
わかってない、って顔だな。
「あの金貨に俺の髪を分からないように引っ掛けといた。多分、今日の夜中にでも勝手に。ああしてやるのが一番穏便に済むと思ったから金を『貸して』やったんだ」
聖女サマの顔を見てやると、呆れたと言わんばかりの表情。
俺はそれを見て非常に満足した。
さて、今度こそ帰りますか。
まだ幾らか聞きたそうにしている聖女サマの相手をしながら帰路につく。
日が落ちる前に、と思いながら。
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