大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

亡霊と痣

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英雄は日が暮れるぐらいまでずっと部屋にいた。つっても大半が他愛もない雑談ばかりで、何の実にもならんような話だが。
「そうそう、ちょっと聞きたいんやけど、なんか学校の裏手側ン所、スプーンで綺麗にくり抜いたみたいな丸になって地面抉れてるらしいやん?もしかしてアレも君か?」
と聞かれた時は正直どう答えようか迷ったが、強引かつ適当に誤魔化した。少なくとも言いたくないという意志を汲み取って深くは聞いてこないのは助かった。
「いやな?もう無いんやけど、最初はなんか血の池出来てて不気味でな。あんだけの血ィどっから出たんかって不思議やってん」
「あー…えー…まぁあそこにデカい何かがいたのは確かだ。とはいえ殺っただろうから気にしなくていい」
「ほーん」
とまぁ、時折勇者関連の話を聞かれて言葉に詰まることはあったが、そういう時は察して聞かないでくれる優しい英雄だった。
さて、起きてから連続して色々と現状をぶち込まれたので、風呂で軽く整理しつつ身体流してたらアーネが入ってきたり、なんだかんだあって風呂から上がるといつの間にかマキナが部屋のド真ん中に置いてあったり、マキナに魔力を入れると膨大なメッセージが入っていたらしいとマキナから報告を受けたりする頃。
『大丈夫かレィアッ!!』
「おっふ」
突如シャルが怒鳴り込んで来た。
「?、どうかしましたの?」
「いや何、ちょいと頭ん中の同居人が声を張り上げただけだ」
と言うと、アーネは「あぁ…」と理解してくれたらしい。
「…で、なんかあったか?」
『色々だ色々!パッと見はもう損傷は無いな?それなら、あの戦いからどれだけ時間が経った!?』
「あ?一週間ぐらい…だよな?」
「貴方が倒れてですわよね?丁度一週間ですわ」
「だそうだ」
『アーネに聞いてくれ。その間、レィアの身体にやけに不幸な事が起こらなかったかって』
「あ…?なぁアーネ、俺が寝てる間、なんか俺の身体に不幸なことが起きなかったか?」
「…なんですのそれ?どういう意味ですの?」
『なんつーかこう、足がもつれて、偶然持ってた刃物がレィア目掛けてぶん投げられたり、突然柱が倒れて来たり、お前が寝てる部屋とか建物が急に崩れたり、使う薬が何かの手違いで猛毒だったり』
…何を言いたい?
ともかく、シャルの言ったことをそのまま言うと、アーネも眉根を寄せつつ首を捻る。
「そんなことありませんでしたわよ?至って普通に意識不明でしたわ」
「普通じゃない意識不明ってなんだよ…」
『…おかしい。第七を使ったのに世界側からの干渉がない?』
「あ…?」
そう言えば、いつだったかそういう話があった気がする。
誰に言われたんだっけ、シャルか…いや、レィヴァーだっけか。
第七血界を使うと、世界全てが勇者を殺しにくるとか。
「規模が小さかったからじゃねぇの?」
『関係ない。真っ白なキャンバスのド真ん中に黒い点があれば、大きくても小さくても目立つだろう?それを消しにかかるのが世界側の干渉だ。今までは多少時間が遅れても必ず来ていたはずなんだが』
今回はそれがない。その理由がわからないからシャルは首を捻っているようだ。
『一週間も何も無いのは流石に遅すぎる…とはいえ一応しばらくは警戒しとけよ』
「あいよ」
『あとお前、いつ唾付けられた?』
「あぁん?唾?何の?」
『…まさか気づいてないのか?ついさっき暗闇から引きずり上げてやっただろうが』
暗闇というと、起きる直前に見たあの夢だろうか。誰かが背中側から引っ張りあげてくれた事を何となく覚えている。
「あれお前か?助かったわ」
『助かったわじゃねぇ。何も助かってねぇよタコ。俺もさっき気づいたんだが、マーキングされてる』
「あ?」
『前にもあったろ、リーザとかいう女に《腐死者》のジェルジネンがマーキングをしてた事件。あれと同じ──じゃ、無いんだが、まぁ似たようなマーキングがお前の右手にされてる』
「………。」
右手を見下ろすと、そこには今も黒々と残る痣がある。
そう言えば。ふと気づく。
それを腕輪によって覆い隠していたマキナは今さっき帰ってきた。
つまり、それまでこの痣を出しっぱなしにしていたのに、誰も何も言わなかった。あの英雄も気づいた素振りすらなかった。
「なぁアーネ」
「はい?なんですの?」
「この手になんか見えるか?」
そう言ってひらひらと右手を振ってみるが、アーネはキョトンとした顔。
「えっと、普通の手…ですわね?」
「普通の手…痣とか見えない?」
「痣…ですの?」
そう言ってアーネは近寄り、俺の右手を触って見始める。痣って触ってわかる物なのだろうか。
「…ないですわね。少し前まで痣があったのは知ってますけれど、今はもう無いですわよ?」
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