大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と戦闘 終

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「ッッッ!!」
歯を食いしばる。
今この瞬間、俺を縛る物は無い。
あるのはただ、邪魔な障害物のみ。
「どけよ」
血による加速に至ったまま、俺は一人そうつぶやく。
今に思えば、聞こえるはずもないのだが──
「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
早まる鼓動、それに押し出された血が左腕から絶えず吹き上がる。
急速に身体が冷え、動きが鈍くなりそうになるが、それでもまだ身体は動く。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
目の前にいるのはまず、俺を仕留めようと襲い掛かってきた魔族二名。
片腕がない状態に一瞬だけバランスを崩しかけるが持ち前の能力で即座にカバー。さらに第二と第六血界を維持した状態で戦技アーツを放つ。
纏う燐光は赤に近い茜の色。
蜻蛉返りと同時に双刃と己を一回転させ、首を狩りつつ相手の裏に落ちるシンプルな戦技アーツ
「《落ち蜻蛉》」
戦技アーツが決まったかどうかは見る必要もない。そのまま戦技アーツの硬直に入る──より、先に
「繋げて戦技アーツ
それは俺が持つ数少ない移動用の戦技アーツ
死角を取る移動法、足音を殺し、気配を殺し、それでいて刹那の隙を見つけ出して近づく歩法、技法。
「《柳幽やなぎかすか》」
移動用の戦技アーツはモロに第六血界の影響を受け、本来ではありえない距離を神速の歩法をもって詰める。
そこからさらに繋いで──!!
「ッ!!」
ギシギシと身体が軋み始める。戦技アーツ戦技アーツで繋ぐというのは本来無茶どころの騒ぎではない。だが。
ここで止まれば、何もかもが無駄になる。
吹き上がった血が片っ端から虚空へと消え、俺の第六、及び第二血界の維持へと消えていく。
空費したその血を糧に、止まろうとする身体をさらに酷使する。
距離は詰めた。位置も調整した。届く。
二体の魔族が一直線に並ぶようなライン。
戦技アーツ…《双一閃》」
音を置き去りにし、俺が地を蹴った。
やっている事は単純だ、超高速で接近し、一直線上の敵を真っ二つに斬るというだけの戦技アーツ
平時と違う事は、三連結目の戦技アーツだと言うことだろうか。
戦技アーツ戦技アーツで繋ぐには、その繋ぐという動作そのものを戦技アーツで補強する必要がある。
そうして補強された戦技アーツはただ撃つ戦技アーツよりもさらに強化される。
つまり、連戦技アーツ・コネクトは後半に行けば行くほど威力や性能が増す。
そして、身体への負担も増す。
「ッ、ぐぅ…!」
限界が来た。
膝から崩れ落ち、双刃を杖のように地面に刺して、辛うじて倒れることを防ぐ。
空気が足りない、いくら吸っても吸っても足りない。
いや違う。いくら息を吸おうと、それを身体にめぐらせる血が圧倒的に足りないのだ。
今の一瞬で四体の魔族を倒せた。
だが。
「成程、お前が──」
余裕をもって砂しかないこの荒地を踏み締める足音が、ゆっくりと俺に近づいてくる。
見上げると、俺の腕を掴んでいた魔族がそこにいた。
余裕というものだろう。掠れきった意識の中、俺はそう考えた。
「お前が《勇者》か」
俺の腕を眼前で見せびらかすように振りながら魔族が言う。
「………。」
パタパタと滴る血。俺が切り捨てた腕から僅かに流れるそれは、俺に足りないもので…それでいて。
《勇者》という殺す機構が、魔族を殺すには思考などしなくても使と判断するに充分だった。
「のこされた…」
「うん?」
「うたかたのゆめ」
囁くようにそう言った瞬間、俺の切り落とされた腕の方から血が滝のように溢れ出る。
「なんッ!?」
効果時間は数秒、しかし、血は俺が漠然と考えるだけで、手足のごとく動いた。
魔族の身体に一瞬で巻き付き、そしてそのまま──
「けつじん」
無数に生えた絶対切断の刃が魔族の身体を微塵に斬る。
と、同時に俺の身体は限界を超え、深い眠りについた。
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