大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と魔法

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「──大丈夫か?」
巻き上がる砂埃、身体が魔力でヒリつく感覚。
それらがゆっくりと収まって行く中で、俺はアーネに声をかけた。
「だ、大丈夫ですわ」
「そうか、なら良かった」
飛ばされたのはなんだったか。恐らくは爆発系の魔法。
魔法であるが故に魔法返しでほとんどを無力化出来たが、アーネはそうも行かない。
開きかけたマキナが咄嗟に壁になったが、常にこんなことが出来る訳が無い。
それに魔法ならまだしも、魔術なら──彼女に対策はほとんど無いと言っていいだろう。
だから。
「マキナ、任せた」
『了解しました』
砂埃が収まる前に、俺は纏いかけていたマキナをアーネに装備させた。
「ちょっ!私がつけてどうするんですの!?」
「魔術対策だ。マキナがありゃある程度は耐えられるはずだ」
シャル曰く、魔術には特定のルールがある。
例えば特殊な触媒や前準備、時間帯や動作。
強力なものになればなるほど縛りは増え、簡単な物ならほとんどそういうものは無いらしい。
だが、その魔術どれをとっても、共通して視認している箇所にしか発現出来ないそうだ。
つまり、全身をくまなく覆うマキナなら、耐えられるはず。
離れても声は聞こえるように、マキナの欠片を耳に詰めて立ち上がる。
「貴方は!?」
「なんとでもなるさ」
砂埃が急な風で煽られて押し流された。前を向くと、既に魔族は一人ひとりの顔が見えるほど近づいていた。
数は七。
「チッ」
最悪の状況だ。当たり前といえば当たり前なのだが、隊を分けてる。俺の足止めも大した意味にはならんか。
だがその分、生存の可能性は上がるか。
『来るぞ』
「ッ」
背中が熱を持つ。
「第二、第四血界、並列解放──」
身体に赤の、黒の、紋様が蠢く。
先手を取ったのは魔族の魔法。空気を干上がらせ、大地を罅割り、触れるものを燃やし尽くす豪炎。
だが。
『「密度が足りねぇな」』
足元の大地を踏み割りながら俺が駆けた。
目の前の火球なんぞには目もくれず、そのまま中心を突っ切り、金剣を大振りに構える。
空いていた彼我の距離など即座に食いつぶし、炎の魔法を飲み干し、魔族本体へと食らいつく。
「なんッ!?」
「オォッ!!」
それは初手限りの猫騙し。
真正面からの不意打ちという、本来成立するはずのない一撃が魔族の身体に食い込む。
咄嗟に身をよじった魔族は辛うじて即死を回避。だが胸を大きく切り裂かれており、ヒトならば一分もしないうちに死ぬだろう。
「ちぃ」
「死ねッ!」
ここで周りにいた魔族が反応。俺に向かって複数の魔法を放つが、ほとんど通らず、また通ったとしても血鎧によって吸収される。
どころか、俺一人に向かって複数の魔法が飛んだせいで、それ自体が一種の目くらましとなりわ俺に二撃目を許させた。
「お、オ、オ…オオッ!!」
金剣が戦技アーツの光を発し、さらに身体に渦巻く紋様が剣に集まる。
肩に担ぐという動きモーションを一部簡略化、前に踏み込むと同時に身体を倒し、身体を捻って下からすくい上げるような動きに変化させる。
「《剛砕》ッ!!」
真横に凪ぐだけ、地味とも言えるだろう。それだけの戦技アーツだが、それ故に大剣で振り抜いた一撃の範囲は広い。
「ガッ!」「──ッ!」
扇状に振り抜いた一撃はおよそ四人の魔族を巻き込んで斬るはずだった。だが、当たったのは二人だけ。それも即死は免れるような状態。
だが──
「なんっ、身体が熱──」「痛っ!」
ぼんっ、と斬られた魔族達が内側から爆ぜた。
第四血界のカウンターに耐えきれなかったのだ。
残り五体。混乱が場を支配している内に収め切れるか。それが出来ないなら逃げたいが──さて、それが許されるかどうか。
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