大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と魔法 終

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負傷していた魔族を片付け、さらにもう一体の魔族が後方のアーネによる魔法の不意打ちで身体の数箇所に拳大の穴を空けた直後、俺の手によって首を刎ねられた。
そして金剣の切り札である聖弾を切る事で、持ち直し始めた場を一瞬だけ混乱に落とす。
「オオオッ!!」
火と風の混合魔法を剣に絞って集中させ、形を強引に押しとどめながら、浮いた岩の魔法を魔族の前に落とす。
「くっ!」
回避されるが、大きな岩は目くらましブラインドとして充分役立つ。ほんの僅かにタイミングをずらし、跳躍。
上から俺が斬り掛かる。
しかし。
「上だっ!」
その言葉に思わず舌打ちをする。やはりタイマンでなければ分が悪いか。
当然ながらこれも回避されたが、突如落とした岩が背後で轟音と共に割れる。
アーネが魔法で爆砕させ、その破片に紛れて複数の炎を放っているのだ。
せめてこの隙に一撃──!
『下がれッ!』
「ッ!!」
訳も分からないが、即座にバックステップを刻んで距離を取る。
「チッ」
何をする気だったかは分からないが、三人目が横から狙っていたか。
魔族達も魔法や魔術がほとんど効かない事を理解し始め、ほとんど近接手段のみで戦い始めた。
素の肉体スペックが高い上に強化魔法を掛ける事が出来る、加えて奴らは例外なく戦闘の天才だ。
一人ひとりが勇者と同等以上の化物。魔法や魔術と言う利点を潰し、それに対抗出来る血界を持っていても三人同時に相手取るのは想定されていない。
出来なくはないが、今後のことを考えるとあまり消耗したくない。
加えて、実を言うと何故か身体が怠い。今に限った話ではなく、ここ最近ずっとだ。確かに訓練所での訓練から続いて直ぐにここに来たが、身体を泥のように覆う謎の倦怠感には心当たりがない。
既に切り札を幾つか切ってる。現在進行形で血も減ってる。決着は早くつけたいが、二戦目三戦目を考えると切れる札は少ない。
いや、だが──!
『左のノッポを狙いますわ!』
心の中で了解と答え、狙いを真正面のデブに合わせる。
「第六血界──!!」
切らざるを得ない。これ以上時間を掛けている暇も、伏せている余裕も無い。
心臓に刻まれた紋様が早鐘を促し、鳴らされた鐘は身体を急かす。
白く燃える炎の剣。今一度それを握り直し、身体の重さを振り切るように大地を蹴る。
「《血瞬》」
音を後ろに、光を横に。
既に剣には柄しかなく、故に起きる現象はただひとつ。
斬られた魔族が業火に飲まれ、内側から焼き尽くされていく。
耳を覆いたくなるような悲鳴と、吹き上がる風に乗って流れる肉の焼ける匂い。振り返ると、目や口、斬られた腹から炎を吹きつつ、うろうろとおぼつかない足取りで魔族が仲間の方へと歩み寄って行く。
そう、恐ろしい事にそれでも数秒、魔族は生きていた。
『タフだな…』
シャルが思わずそう洩らす程には頑丈だった魔族は、しかしついには白炎に耐えきれず、内側から爆散した。
即座に水の魔法を回収し、剣に装填。丁度そのタイミングでアーネが放った魔法によって一人、足が消し飛んだ。
この距離ならまだ間に合う。届く。
そう判断し、装填した直後、即座に剣を縦に振る。
凄まじい勢いで迫り来る水刃に対し、魔族は両腕で勢いをつけて跳躍。辛うじて回避に成功するが──
──空中に跳ねた瞬間、俺は再び血瞬を使用。魔族の頭を引っ掴み、通り過ぎた水刃へ目掛けて放り投げる。
「あっ、え?」
それがその魔族最期の一言だった。
「あと、一人ィ…」
そう言って顔を上げると、残っていたはずの魔族の姿がどこにもない。
──まさか。
『逃がしたか』
良かった、と思う反面、しくじったという思いがせり上がる。
ほぼ間違いなく俺という存在は向こう側に共有されただろう。
手札は見せた。血界も惜しむつもりだったが、そんな余裕は無かった。
魔法、魔術の効かないヒトなど、向こうもそうそう心当たりがある存在ではあるまい。
「知られたか」
今この場に《勇者》が居るのだと。
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