大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

予定と鍛冶屋

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結論から言うと、シエルは元気そうだった。
ただ、俺があれだけ拒絶したせいで、終始オドオドしていたが。というか、あれだけ強く拒絶しておいてオドオドするだけというのも中々なのだが。
シエルの中に渦巻く《魔王》の力は、相も変わらずそこにある。僅かにだが、見間違えようのない程度には確実に力をつけているそれは、やはりどうしても微かに残った《勇者》としての本能を刺激し、俺を不快な気持ちにさせる。《巫女》とは別ベクトルだが、激しい憎悪を燃やすような感覚。内から湧き出る不快感とは違うが、どの道同じだ。
食卓で会ったシエルを見た時、俺は反射的に顔を顰めた。
それはどうしようもない反応だったが、それをシエルに見られたのは正直やらかしたと思った。
何か言いかけ、俺の顔を見、そして口を閉じて押し黙る。
俺も弁明することはせず、黙って朝食を食べ、屋敷を出る。
「おはようございますレィア様。祭りへ行かれるのですか?」
「いや、ちょいと鍛冶屋。ベルの所だ」
すれ違ったモーリスさんにそう言って、目的地へ向けて一直線に進む。
結局、シエルの《魔王》に関しては現状どうすることも出来ないというのが今までの情報収集の結果だ。可能性があるとすれば──やはり魔族側に聞くしかないだろう。
だが、接触出来る可能性のある魔族なんざいる訳が無い。少なくとも、純粋な魔族はこの結界内にはいないだろう。
なら、取引を持ちかけるなら半端な方か。
幸いな事に、得体の知れない黒い宝石のようなモノもある。連中はアレを欲しがっているらしいので、取引にはなるだろう。
ただ、依然としてその窓口が無いのが問題なのと、この石が何なのかは結局分かっていないことが問題か。今思えばユーリアかルト先輩にでも聞いときゃ良かった。あー、でも触れるのも不味いんだっけ。
やらなきゃならんことは山積みだが、とりあえずはかなり荒く使ったマキナを製作者殿に見せに行かねばなるまい。長くなるのは確実だし。
祭りの二日目だというのに、相も変わらずトンテンカンと騒がしい通りを歩き、ベルの家を目指す。周りの武器屋から金鎚の音はするが、通りにはほとんど誰もいない。大通り周りの祭りへとヒトが集中してるせいだろう。
とはいえ、こちらとしては好都合。祭りの日でも営業しているということだから、気兼ねなくベルの所へ押しかけることが出来る。
直接来るのは一年ぶりだろうか。ともかく以前よりボロくなったような気さえする小屋に着くと、中から金鎚の音と声が聞こえる。一人で悪態でもつきながら金鎚を振っているのだろうか。元気そうでなによりだ。
「おーい、邪魔するぞー」
と言って小屋の戸をがらりと開けると、むわりと篭っていた熱気が放たれる。
それと同時にぶん投げられたのは手斧だろうか。避けるまでもなく外れていたので、当てる気は無かったのだろうが。
「誰だテメェ!!勝手に入ってくんじゃねぇカス!!」
「久しぶりだな、ベル。相変わらず元気そうでよかった」
「あぁん!?」
そこでようやく俺の方を見た彼女は、フンと鼻息を鳴らして「なんだアンタか」と言って、作業に戻る。
「一段落したら話を聞くし。そこで待っててな」
と言われたので、そこら辺に適当に座って待つことにした。
今のうちにマキナ出しとくか。
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